有機ゲル: ダイナミックなコンビ

2010年05月31日

2成分のらせん状分子を混ぜ合わせる手法が、機能性ソフトマテリアルを作る汎用的な方法につながることが実証された

図1: 新しい熱可逆的ゲル(挿入図)は、擬エナンチオマーの2成分混合により、長いファイバー状の凝集体(原子間力顕微鏡像)を形成している。 © 2010 Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA. Reproduced with permission.
図1: 新しい熱可逆的ゲル(挿入図)は、擬エナンチオマーの2成分混合により、長いファイバー状の凝集体(原子間力顕微鏡像)を形成している。

© 2010 Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA. Reproduced with permission.

DNAなどの生体分子は自然に集合して3次元らせん構造を形成する。この現象が明らかになって以来、研究者たちは様々な化学ユニットを用いて、これらの構造体を再現しようと試みてきた。

複数のベンゼン環が縮合してできた「ヘリセン」というらせん状分子は、その共役骨格からユニークな光学特性、電子特性、凝集特性が生じるため、大きな科学的関心を集めている。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)の山口雅彦教授らは、ヘリセンがつながった短い鎖(オリゴマー)を用いて3次元らせん構造を形成させ,これをもとに熱可逆性のある有機ゲルを作成した1 。この研究チームが開発した手法は、液体―固体ハイブリッド材料の特性を、分子レベルでより正確に制御するのに役立つだろうと期待されている。

ヘリセンを合成すると、2種類のキラルエナンチオマー(同じ化合物の異性体だが、互いに鏡像となるような構造をとるもの)が同量生成するが、このようなラセミ混合物は通常、規則的な格子をもつ結晶となり、ゲルにはならない。しかし、純粋なエナンチオマーでは、結晶化に必要な密な充填が阻害され、ヘリセンが凝集して長いファイバーになり、これらが溶媒分子を取り込んでゲルになることがある。

山口教授らのチームは、純粋なエナンチオマーよりもさらに優れたゲル形成特性を示す、一連の新しい「擬エナンチオマー」を開発した。擬エナンチオマーは、大きさがわずかに異なる2種類のヘリセンエナンチオマーから成り、これらを室温で混ぜ合わせることで、自然に黄色いゲルが生成する(図1)。この過程は熱可逆的であり、110 °Cまで加熱するとゲルは液化するが、25 °Cまで冷却するとゲルが再形成される。山口教授によると、擬エナンチオマーは純粋なエナンチオマーとラセミ混合物の中間の特性をもつため、結晶化が抑制されファイバーの形成が促進されるという。

ゲル系ソフトマテリアルのニーズは、生体工学から消費者包装まで、様々な分野で拡大している。ゲルがこれらの用途に適しているのは、生体内のネットワークを模倣することができ、従来の材料とは異なる特性をもつからである。山口教授の擬エナンチオマー法は、小分子を確実に凝集させる手段として、ゲル化合物の改良につながる可能性がある。

「硬度、弾性、柔軟性、加工性などの特定機能をもつゲルを精密に作るには、精巧なゲル構造制御法が必要です」と山口教授は言う。「その意味で、小分子凝集によるゲル形成は興味深い手法です。小分子の構造を容易に調整し、多様なゲルを作成することができるからです」。

2成分ゲルの使用は、調節性という観点から大変有望である。エナンチオマー比を変えることで、異なるゲルを作成することができるからだ。山口教授によると、この方法には別の意義もある。「例えば、一方の化合物を表面に、もう一方の化合物を溶液中に存在させた系では、固体と液体の界面の構造を調製することができるのです」。

References

  1. Amemiya, R., Mizutani, M. & Yamaguchi, M. Two-component gel formation by pseudoenantiomeric ethynylhelicene oligomers. Angewandte Chemie International Edition 49, 1995–1999 (2010). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。