ナノテクノロジー: 金属ガラスナノワイヤ

2010年02月22日

金属ガラス製のナノワイヤは極めて丈夫で、様々なナノテク部材への応用が期待できる

図1: フレキシブルな金属ガラスナノワイヤの電子顕微鏡像。左側に見えるのは、ナノワイヤが引き出された金属ガラスリボンサンプル。中央のナノワイヤの自由端は、正弦波のようなパターンで振動している様子がとらえられている。
図1: フレキシブルな金属ガラスナノワイヤの電子顕微鏡像。左側に見えるのは、ナノワイヤが引き出された金属ガラスリボンサンプル。中央のナノワイヤの自由端は、正弦波のようなパターンで振動している様子がとらえられている。

金属ガラスは、既に携帯電話のケーシングや医療用インプラントなどの構造部品として用いられており、将来は様々な部材としての応用が広がる可能性を秘めている。一方、金属ガラスをナノスケールサイズまで加工する研究は始まったばかりであり、まだ多くの課題が残されている。東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)において研究分野の垣根を越えた融合研究チームは最近、非常に優良な機械的特性を持つ金属ガラスナノワイヤを作製する新方法を開発し、新たなナノテク研究への布石を打った1

金属ガラスは原子が周期的に配列していない非晶質(アモルファス)構造であり、合金でできていることを除けば、窓ガラスと同様の非晶質構造を持っている。金属ガラスを手に取って見てみると、鋼鉄などの結晶性金属と同様の金属的な光沢を放ち、見た目には普通の金属のようにみえる。ところが、このような通常の金属は結晶質で構成されているため、空孔、転位、粒界などの欠陥が必然的に含まれており、これらが機械的特性を劣化させる起因となる。アモルファスである金属ガラスにはこれらの欠陥が全くないため、超高強度、高弾性、高硬度、耐摩耗腐食性を併せた優れた機械的特性を持つユニークな材料となる。

金属ガラスの創製及びその多用化に向け、これまでに世界中で研究が進められ様々な合金組成が探索されてきており、バルクサイズの金属ガラスの作製にも成功して大きな成果を挙げつつある。一方、金属ガラスのナノテク研究分野への応用は未だスタートしたばかりである。ナノサイエンスの専門家でWPI-AIMRの融合研究チームの中山幸仁准教授は、バルク金属ガラスの圧縮試験後の破壊面上に金属ガラスナノワイヤが生成されていることを2008年に発見し、バルク金属ガラスの破壊過程中の断熱効果によって瞬時に昇温された結果、粘性流動を生じナノワイヤが形成されるという新しい現象を明らかにした。

今回融合研究チームが新たに見出した方法は、金属ガラスリボンを「引っ張る」という超塑性変形を利用した方法で、破壊過程に比べはるかに制御性のよい方法でナノワイヤを作製するメカニズムであり、ガラス吹き職人たちが何世紀にもわたって利用してきた単純な原理に従っている。中山チームは独自の装置を開発して研究をスタートさせ、荷重を取り付けた金属ガラスリボンが粘性流動の状態になったところで引き伸ばすという方法を新たに開発している。

作製されたナノワイヤは優れた機械的特性を示しており、弾性的に曲げることができるほか(図1)、バルク金属ガラスにほぼ匹敵する超高強度を維持している。画期的なことは、このシンプルな作製法は汎用性があり、様々な合金組成からなる金属ガラスをナノワイヤの形状に加工することができる点にある。「将来的には、パラジウム基金属ガラスナノワイヤが高感度の水素センサーとして利用できるかもしれないし、鉄基金属ガラスは軟磁性を示すので、生体磁気計測用の超高感度磁気センサーに使える可能性もある」と中山准教授は将来の展開に期待している。

References

  1. Nakayama, K.S., Yokoyama, Y., Ono, T., Chen, M.W., Akiyama, K., Sakurai, T. & Inoue, A. Controlled formation and mechanical characterization of metallic glassy nanowires. Advanced Materials Published online: 2 Oct 2009 | doi: 10.1002/adma.200902295 | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。