金属ガラス: クラスター制御

2009年11月30日

原子スケールの不均一性が金属ガラスの高性能化につながる

図1: 銅(Cu)-ジルコニウム(Zr)-銀(Ag)バルク金属ガラスの原子配置。 銀原子を中心とするクラスターが周囲のシェル原子を共有してつながっている。
図1: 銅(Cu)-ジルコニウム(Zr)-銀(Ag)バルク金属ガラスの原子配置。 銀原子を中心とするクラスターが周囲のシェル原子を共有してつながっている。
 

固体金属は通常、規則正しい結晶として存在しているが、近年「バルク金属ガラス(BMG)」と呼ばれる、ランダムな原子配列構造を持ち物理的・化学的にも強い金属合金もつくられるようになってきた。優れた機械的特性を持っていることから、大きな形状のBMGを形成するための研究開発も進んでいる。これまでの研究から、ある特定の金属を組み合わせると大きな形状のBMGが形成できることがわかっているが、その詳細は明らかになっていない。

これまで、金属ガラスの原子配列構造について研究は行われてきたが、原子はランダムかつ均一に分布していると考えられてきた。しかし、今回、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の藤田武志助教、陳明偉教授および仙台高等専門学校(宮城県名取市)の共同研究者らは、3種類以上の金属を組み合わせた場合、それらの原子が各種のクラスターを生成し、不均一に分布することを見出した1。そしてこの不均一性が、大きなガラス形成能を可能とする鍵であることを見つけた。


「BMGは新しいタイプの高強度エンジニアリング材料で、さらに過冷却液体状態において、様々なナノ構造体に加工することも簡単にできる」と陳教授は言う。

今回の研究のきっかけとなったのは、銅-ジルコニウム金属ガラスに銀を少量添加すると、ガラス形成能が飛躍的に向上するという発見である。これまでは多成分BMGの構造を詳細に調べることは困難であったが、研究者らは世界最高性能の大型放射光施設SPring-8(兵庫県)の広域X線吸収微細構造(EXAFS)分光法を用いて、銀の添加量と銅-ジルコニウム-銀BMG試料の原子配列構造を詳細に調べた。

EXAFSのデータとコンピューターシミュレーションによる原子配列モデルを比較・検証し、銅-ジルコニウム-銀BMGでは、主として2種類のクラスターが形成されることを明らかにした。その1つは中心の銀原子が繋がってジルコニウムを豊富に含むシェル(殻)状のクラスター(図1)であり、もう1つは、全体的に銅を豊富に含むクラスターである。このような原子スケールの不均一性がガラス形成にうまく働いている。

さらに、クラスターの大きさが、効率的に充填体をつくるための最適なサイズに近いことから、これらのクラスターがガラスの形成過程で重要な役割を担っていることがわかった。従来から知られているような、クラスターが個々に存在している場合とは異なり、常に隣接するクラスターとの間で「重複」原子を共有し、高密度充填体を形成している。

今回の研究結果は、バルク金属ガラスの形成における原子配列構造の不均一性の重要性を浮き彫りにした。すなわち、「金属ガラス中の原子は、均一に分布して充填体を構成している」という従来の常識を覆す新しいパラダイムの提唱である。

「EXAFSから得た実験データの解釈は、仙台高専の共同研究者たちが担当し、この様な最先端研究に学際的協力は欠かせない。」と陳教授は話す。

References

  1. Fujita, T., Konno, K., Zhang, W., Kumar, V., Matsuura, M., Inoue, A., Sakurai, T. & Chen, M.W. Atomic-scale heterogeneity of a multicomponent bulk metallic glass with excellent glass forming ability. Physical Review Letters 103, 075502 (2009). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。