超伝導: 注目を集めるグラファイト
2009年09月28日
グラファイト化合物の超伝導を理解するための重要な手がかりが、高分解能分光実験によって明らかになった
近年、グラファイト(黒鉛)層間化合物C6YbおよびC6Caが異常に高い温度で超伝導になることが明らかになり、これらの物質の超伝導の性質を理解するための研究が精力的に行われるようになった。このたび、東北大学の原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)および大学院理学研究科の研究者らは、超伝導エネルギースペクトルに見られる特徴的なギャップのサイズと性質を確認することによって、グラファイト化合物の超伝導の起源に関する重要な手がかりを得た。
C6Ca は、グラファイトシートの間に金属原子が入り込んだグラファイト層間化合物の一種であり、このグラファイト層間化合物の一種が超伝導になることが40年以上も前に見いだされている。しかし、最近発見されたC6Caは、従来のグラファイト層間化合物よりもはるかに高い11.5 Kまで超伝導を維持する点で特別である。
研究者らは、この挙動の起源を解明するため、C6Caの電子状態を通常のグラファイトと比較した。これらの化合物のわずかな相違を調べるのに用いられたのが、東北大学に建設された高分解能光電子分光装置だった。研究チームを率いる高橋隆教授は、「私たちの装置のエネルギー分解能は世界のトップレベルにあり、今回の超伝導ギャップの観測にとって、なくてはならないものでした」と説明する。
高分解能実験によって、グラファイトとC6Caの重要な相違が明らかになった。特筆すべきは、この実験によって、グラファイト層の炭素原子ばかりでなく、その層間にある層間電子に関するエネルギー状態も解明されたことである。研究者らはこうして、C6Caを超伝導オンセット温度以下まで冷却していったときの層間電子のエネルギー状態の変化を観測することができた。
理論的には、測定されたエネルギー状態にギャップが開くことにより超伝導のオンセットが観測できると予想された。実際、そのとおりのことが観測された。しかし、ギャップは層間電子の電子状態のみに見られ、グラファイトシートの面内電子状態には見られなかった。
これらの研究結果は、層間電子の役割の重要性を明確に証拠立てている。カルシウム原子はグラファイト層に電子を「与える」が、実験結果は、このカルシウム電子と炭素原子との強い結合によってC6Caの超伝導温度の高さを説明できることも示唆している。
これらの研究結果の重要性は、グラファイト層間化合物の枠にとどまらない。銅酸化物高温超伝導体など、ほかの層状化合物系を理解する重要な手がかりにもなるかもしれない。「私たちが得た知見は、ゆくゆくは、さらに転移温度の高い新しい超伝導体の発見につながると考えています」と高橋教授は付言した。
References
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Sugawara, K., Sato, T. & Takahashi, T. Fermi-surface-dependent superconducting gap in C6Ca. Nature Physics 5, 40–43 (2009). | article
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