金属ガラス: 内部構造に光を当てる

2009年09月28日

高エネルギー放射光が金属ガラスの隠された内部構造を明らかにする

図1: Zr–Cu金属ガラス中の原子が面共有(左)または辺共有(右)により、どのようにして稠密充填した20面体クラスターを形成するのかを示す模式図。

図1: Zr–Cu金属ガラス中の原子が面共有(左)または辺共有(右)により、どのようにして稠密充填した20面体クラスターを形成するのかを示す模式図。

高温の金属合金を注意深く冷却し、結晶化しないように固化させた金属ガラスは、材料工業に大変革をもたらすことが期待されている。金属ガラスは、内部の原子配列が不規則に、かつ、稠密に充填しているため、一般的な結晶合金よりも強度があるが、加熱するとプラスチックのように鋳造成型することができる。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)とフランスのグルノーブル工科大学の国際研究チームは、高エネルギー放射光を利用して、ジルコニウム(Zr)と銅(Cu)からなる金属ガラスの内部構造を詳しく調べた1。その知見から、従来よりも厚肉の高機能性合金ガラスの製造に関する指針が得られた。

Alain Yavari教授が率いる研究チームは、高エネルギーシンクロトロンX線源を利用して、Zr–Cu金属ガラス試料の深層部の原子に対して光子散乱実験を行った。この実験で得られたX線回折シグナルを数学的に解釈することにより、ガラス内でのZr–Zr、Cu–CuおよびZr–Cu原子対がどのように分布するのかを明らかにした。また、様々な組成の合金について測定を行うことにより、ガラスの安定性の変化を原子構造の変化と関連づけることも可能となった。

Yavari教授によると、Zr–Cu金属ガラスは「理想的な固溶体」の一つである。すなわち、原子間の相互作用が弱いため、ガラス内で原子が無秩序に分布することができるという。

原子が無秩序に分布していることで、稠密充填内部構造ができるとともに、合金の結晶化に対する障壁も減少する。したがって、Zr–Cu混合物からは非常に薄いガラスしか鋳造することができない。しかしながら、最近、高温の合金に第3の成分としてアルミニウム(Al)を添加することにより、数ミリメートル厚さまでの、より高強度のガラスを鋳造できることが明らかになった。

研究チームは、Zr–Cuが理想的な溶体特性を示すのとは対照的に、Zr–Cu–Al金属ガラスは理想的な振る舞いから大きく外れた振る舞いを示すことを見いだした。また、Zr–Cu–Alの原子がある限定された範囲の秩序化領域を形成しており、この構造が、より厚肉のガラスの作製を可能にしていることも明らかにした。これらの秩序化領域は、アルミニウム原子の外殻電子とより大きな原子寸法のジルコニウム原子との間の引力のために形成されると考えられる。そのシェル(殻)中の原子配列は20面体に類似しており、こうしたシェルがガラス中で稠密充填している(図1)。Yavari教授らは以前にも、他のZr–Cu合金においてそのようなクラスターの形成を観測している。

「シンクロトロン放射光を利用することは、Zr–Cu–Al金属ガラスの解析に大変有利なのです」とYavari教授 は言う。従来のX線ビームが材料表面で完全に吸収されてしまうのに対して、シンクロトロンによって発生した光は、厚いサンプルの内部に入り込めるだけのエネルギーと強度をもっているため、金属ガラスの独特な内部構造をより深く理解することを可能にするのだ。

References

  1. Georgarakis, K., Yavari, A. R., Louzguine-Luzgin, D. V., Antonowicz, J., Stoica, M., Li, Y., Satta, M., LeMoulec, A., Vaughan, G. & Inoue, A. Atomic structure of Zr–Cu glassy alloys and detection of deviations from ideal solution behavior with Al addition by X-ray diffraction using synchrotron light in transmission. Applied Physics Letters 94, 191912 (2009). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。