バイオミメティクス: バラの花びらに付いた水のように

2009年08月31日

天然のシステムから着想を得た金属-高分子ハイブリッド表面は、水滴をはじきながら保持することができる

図1: 親水性金属ドーム構造と疎水性高分子針状構造から構成される生体模倣ハイブリッド表面の走査電子顕微鏡像。

図1: 親水性金属ドーム構造と疎水性高分子針状構造から構成される生体模倣ハイブリッド表面の走査電子顕微鏡像。

にわか雨がやんだ後の満開のバラを想像してみよう。花びらの上の水滴は、滑り落ちることなく、玉のようになって付いている。花をひっくり返しても、花びらが水滴をしっかりと保持しているので、水滴が落ちることはない。バラの花びらの水滴保持力のかぎは、その表面の微細構造にある。花びらの表面は、水を引き付ける親水性ドメインと水をはじく疎水性ドメインの両方から構成されているのだ。

バイオミメティクス(生体模倣技術)は、バラの花びらの吸着特性といった自然のもつ機能を人工的に再現し活用しようとする分野である。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の下村政嗣教授らは、水滴をはじき、かつ、吸着できる金属-高分子ハイブリッド構造からなる新しい生体模倣表面を自己組織化により作製することに成功した1

本論文の主著者である石井大佑助教によると、ぬれ性の調節可能な生体模倣表面をつくるには、親水性ドメインと疎水性ドメインのサイズを精密に制御する必要がある。水滴のサイズに比べて表面構造のサイズが大きすぎると、それぞれのドメインが別々に機能するため、水滴の制御は困難であり、サイズが小さすぎると、水滴の挙動にほとんど影響を与えることができないためである。

「私たちが開発したハイブリッド表面は、マイクロメートルサイズの疎水性ドメインと親水性ドメインから構成されています。そのような表面上では、水滴は、はじかれると同時に吸着されているのです」と石井助教は語る。

著者らは、親水性の金属ドーム構造と超撥水性の高分子針状構造とを組み合わせて、新しい生体模倣表面を作製した(図1)。「高分子と金属のハイブリッド構造により、外部刺激に応答するぬれ性をもつ機能性表面をつくりたいと考えているのです」と石井助教は説明する。

最初に、ガラス基板上にポリスチレンが主成分のクロロホルム溶液を塗布し、高湿度雰囲気下でその表面に水滴を結露させ、クロロホルムおよび水滴を蒸発させることで六角形状に配列した微細空孔をもつハニカム膜を形成した。次に、このハニカム膜の一部の空孔内部に無電解めっきによりニッケルを析出させた。最後に、めっきされたハニカム膜の最表面層を剥離し、高分子の針が整列している中にマイクロメートルサイズの金属ドームが分布しているハイブリッド構造を得た。

著者らは、この生体模倣ハイブリッド表面を様々な金属ドーム密度で作製し、ぬれ特性を制御した。金属ドーム密度を0%から25%まで変えることにより、強力な撥水表面からバラの花びらと同様に水滴吸着性をもつ撥水表面に変えることができた。

最終的に著者らが目指しているのは、外部刺激によりぬれ性を操作することである。「金属微細構造の吸着特性は、電場や磁場の印加により制御することができます。私たちは、新しいマイクロ流体デバイスやラボ・オン・チップを目指して、この生体模倣ハイブリッド表面上での微小液滴操作を実証していくつもりです」と石井助教は語る。 

References

  1. Ishii, D., Yabu, H. & Shimomura, M. Novel biomimetic surface based on a self-organized metal–polymer hybrid structure. Chemistry of Materials 21, 1799–1801 (2009). article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。