バルク金属ガラス: 強いのに脆いわけ

2009年08月31日

ナノスケールのせん断帯が、バルク金属ガラスの塑性流動の原因であることが確認された

図1: ガラス質材料におけるSTZの活性化の概略図。巨視的なせん断による機械的破壊は、すべり面上に臨界数の活性化STZが蓄積されることによって起こる。
図1: ガラス質材料におけるSTZの活性化の概略図。巨視的なせん断による機械的破壊は、すべり面上に臨界数の活性化STZが蓄積されることによって起こる。

「バルク金属ガラス」として知られるガラス状の原子構造をもつ金属合金は、通常の金属よりもはるかに強度が高く、広い範囲に応用できると期待されている。しかし、残念なことにこの材料は延性が低く、壊れやすいこともわかっている。その理由を解明するため、東北大学・原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の陳明偉(Mingwei Chen)教授ら1は、バルク金属ガラスが塑性変形する際に生じるせん断変形帯(shear transformation zone; STZ)の初の実験的特性評価を行った。

従来型金属を溶融液状態から冷却すると、原子が整列して規則正しい結晶構造となる。このとき、完全な単結晶構造が得られることはほとんどなく、一般的には、ランダムに配向した結晶子からなる多結晶マトリックスが生成する。これらの結晶粒の界面などの不完全部分は弱いため、実際の金属の機械的強度は、金属が完全な単結晶構造をもつとして計算された理論強度をはるかに下回っている。

これに対して、バルク金属ガラスは、原子が整列して結晶子を形成するだけの時間を与えられなかったために、セラミックガラスに似た不規則な構造をとることになった合金である。バルク金属ガラスは、その構造上、粒界や結晶欠陥の問題がなく、従来型金属よりもはるかに高い強度を示す。一方で、セラミックスほど脆くはないが、ほとんどの金属より脆いことが知られている。

バルク金属ガラスの延性の低さを説明する主要な理論のひとつに、バルク金属ガラス内に「せん断変形帯」(STZ)が出現するというものがある。STZは、材料中で塑性流動するナノスケールの体積部分であり(図1)、STZに応力が集中することで局所的なせん断帯が形成されて、機械的破壊や低い延性をもたらすと考えられている。けれどもこれまで、STZの性質はおろか、正確なサイズすら評価されていなかった。そこで陳教授らは、これらの構造体の機械的挙動を評価するために「レートジャンプ・ナノインデンテーション(rate-jump nanoindentation)」という新しい手法を開発し、マイクロサイズのダイヤモンド圧子に対するバルク金属ガラスの応答を、ナノスケールの力分解能と変位分解能で測定し、モデリングを行った。

研究者らは、この手法を各種のバルク金属ガラスに適用して、STZの原子クラスターの塑性流動に関与する活性化体積を決定し、これとバルク金属ガラスの延性との相関性を証明することに成功した。そして、最小のSTZ体積を示すバルク金属ガラスが、同時に最低の延性を示すことを見いだした。この観測結果は、ほかの研究者らがバルク金属ガラスの機械的特性の理解を深め、最適化することを可能にするはずである。これはまた、彼らの手法が、ほかの非結晶材料の機械的挙動の評価において大いに役立つことの証でもある。

References

  1. Pan, D., Inoue, A., Sakurai, T. & Chen, M.W. Experimental characterization of shear transformation zones for plastic flow of bulk metallic glasses. Proceedings of the National Academy of Sciences 105, 14769–14772 (2008). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。