材料プロセスデータ科学でMOFを狙った大きさに合成

2026年07月13日

材料プロセスデータ科学でMOFを狙った大きさに合成

―自動実験と連動した全自動プロセス最適化に期待―

発表のポイント

  • 結晶性多孔性材料(注1)である金属有機構造体(MOF)(注2)を対象に、合成条件から粒子の大きさを予測する機械学習モデル(注3)を構築しました。
  • 代表的なMOFの一つであるZIF-8(注4)について、既報論文130報から合成条件と粒子の大きさを紐づけるデータベースの作成に成功しました。
  • 自動実験システムを用いて実際に合成を行い、モデルの予測値と実験値が高い精度で一致することを確認しました。
  • 本成果は、触媒やガス貯蔵・分離材料などに使われるMOFを、目的に応じた大きさで効率よく合成する技術につながると期待されます。

概要

ノーベル化学賞で注目されている金属有機構造体(MOF)は、触媒やガス貯蔵・分離などへの応用が期待される結晶性多孔性材料です。MOFは規則正しい結晶構造をもつだけでなく、内部に空隙・細孔をもつことが特徴で、その性能は粒子の大きさにも強く左右されます。東北大学学際科学フロンティア研究所および多元物質科学研究所の笘居高明教授と東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)のHao Li教授らのグループは、代表的なMOFであるZIF-8を対象に、既報論文130報から合成条件と粒子の大きさを整理したデータベースを作成しました。このデータを用いて機械学習モデルを構築したところ、高い精度で粒子の大きさを予測できました。さらに、自動実験システムでZIF-8を合成し、実験値と予測値がよく一致することを確認しました。このことは、狙った大きさのMOFを合成する条件が予測できることを意味しており、将来的には自動実験システムと機械学習モデルを連動した、材料合成プロセスの自動最適化につながることが期待されます。

本成果は、2026年6月29日に学術誌Chemical Scienceに掲載されました。

詳細な説明

研究の背景と経緯

2025年のノーベル化学賞がその開発に授与された金属有機構造体(MOF)は、金属イオンと有機配位子(注5)からなる設計性の高い多孔性材料であり、触媒やガス貯蔵・分離などへの応用が強く期待されています。MOFの特性はその合成プロセスに強く影響され、粒径(粒子の大きさ)は材料性能を左右する重要なパラメーターの一つです。

目的の大きさの粒子を合成する技術は、重要な課題の一つです。その実現には、蓄積された知見を活用し、目的とする粒径に応じた合成条件の設計を支援する仕組みが必要です。しかし、材料合成プロセスは多くの因子が関与するため複雑で、さらに実験者の手技差に起因するデータのばらつきが大きく、高い再現性の実験データ取得自体が困難です。東北大学大学院博士課程のYuan Wang、東北大学学際科学フロンティア研究所の笘居高明教授と橋本佑介特任准教授、東北大学多元物質科学研究所の岩瀬和至准教授、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)のHao Li教授とHeng Liu特任助教らのグループは、これまでに材料合成とデータ科学的手法の融合に関する研究を行ってきました。今回、MOFの合成条件から粒径を機械学習で予測できるかを検証しました。

今回の取り組み

本研究では、合成条件に基づく粒径予測を通じて、MOFの粒径制御を支援する手法の構築に取り組みました。具体的には、化学的・熱的に安定なMOFとして知られるZIF-8に注目し、既報論文130報から274点のデータを抽出し、7つの合成パラメーターと粒径を整理したデータベースを作成しました。そして、得られたデータベースを用いて機械学習モデルを構築したところ、高い精度で粒径を予測できることを確認しました(決定係数R2=0.90)。また、機械学習モデル解釈手法であるSHAP解析(注6)により、配位子/金属濃度比や反応時間が粒径に大きく影響することを明らかにしました。さらに、独自に開発した自動実験システムを用いてZIF-8を合成し、実験で得られた粒径を機械学習モデルによる予測値と比較したところ、実験値と予測値がよく一致することを確認しました(図1、図2、図3、動画1)。

今後の展開

本成果は、反応温度、反応時間、配位子/金属濃度比、前駆体(注7)濃度、溶媒種、溶媒体積、撹拌条件など、文献中に比較的記載されやすい合成パラメーターを用いた機械学習解析を行い、高い粒径予測精度を実現しました。しかしながら、実際の合成プロセスには、撹拌速度、添加速度など、文献に十分記載されない要因も多く存在します。これらの詳細な実験パラメーターを特徴量として含めることで、より高い予測精度を実現できる可能性があります。また、実験操作のばらつきを抑え、再現性の高いデータを蓄積することが重要です。本研究グループは、実験自動化に取り組む東北大学学生発スタートアップQueeenB社やLaboRobo社などとも協力しながら自動化技術の導入を進め、再現性の高いデータ取得を実現し、材料研究の効率を飛躍的に向上させる基盤整備を進めます。


図1. MOFの粒径を制御するための、AI・データ解析を活用した材料作製の流れ。本手法は、以下の3つの段階で構成されます:(1)体系的な文献データベースの構築、(2)機械学習モデルの訓練および評価、(3)SHAP解析に基づく特徴量重要度分析と自動実験検証による予測モデルの反復的な改良。

図2. 予測モデルの実験的検証。(a)代表的なZIF-8試料のSEM画像(走査電子顕微鏡画像)。挿入図には、100個以上の粒子を対象とした統計解析から得られた粒子径分布を示す。(b)予測粒子径と実験的に測定された粒子径の比較。破線は完全一致を表す。

図3. ロボットアーム、電動ピペット、電子天秤などを組み合わせた自動実験システムを開発し、MOF合成実験における操作条件の再現性向上を実現しました。

謝辞

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号:JP23K23113、JP25K01737、およびJP24K23069)ならびにJST SPRING(課題番号:JPMJSP2114)の助成を受けて実施されました。本論文の出版にあたっては、東北大学「オープンアクセス推進のための APC 支援事業」からの支援を受けました。

用語解説
注1. 多孔性材料
内部に多数の微細な孔を持つ材料。分子の吸着・分離・貯蔵などに利用される。
注2. 金属有機構造体(MOF)
金属イオンと有機分子が規則的に結合してできる、多数の細孔を持つ結晶性材料。
注3. 機械学習モデル
データから規則性を学習し、未知の条件に対する結果や物性を予測するための数理モデル。
注4. ZIF-8
亜鉛イオンと2-メチルイミダゾールから構成される代表的なMOF。高い安定性と多孔性を持つ。
注5. 配位子
金属イオンに結合する有機分子。MOFの構造形成や細孔特性に大きく影響する。
注6. SHAP解析
機械学習モデルの予測結果に対して、各特徴量がどの程度影響したかを定量的に評価する解析手法。
注7. 前駆体
目的材料を合成するための出発物質。MOF合成では金属塩や有機配位子などが該当する。

論文情報

タイトル: Materials Process Informatics-Assisted Precise Particle Size Control of Metal-Organic Frameworks
著者: Yuan Wang, Heng Liu, Yusuke Hashimoto, Kazuyuki Iwase, Hao Li, Takaaki Tomai
掲載誌: Chemical Science
DOI: 10.1039/d6sc03212e

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学学際科学フロンティア研究所
教授 笘居 高明

Tel: 022-217-5630
E-mail: takaaki.tomai.e6@tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学 学際科学フロンティア研究所
企画部 広報担当

E-mail: fris-pr@grp.tohoku.ac.jp