ナノ厚の非磁性体が超伝導を抑制する現象を発見

2026年07月10日

ナノ厚の非磁性体が超伝導を抑制する現象を発見

-磁石を用いない次世代超伝導デバイスの基盤技術として期待-

発表のポイント

  • 単純な岩塩構造を持つ重い電子系金属(一酸化セリウム:CeO)と超伝導体(一酸化ランタン:LaO)の人工積層構造を世界で初めて作製しました。
  • 非磁性体であるCeOをわずか数ナノメートル積層するだけで、LaOの超伝導が完全に消失することを発見しました。
  • 磁石(強磁性体)を使わずに超伝導を制御できるため、漏れ磁場のない高集積な超伝導量子デバイスやスピントロニクス素子への応用が期待されます。

概要

次世代超伝導量子デバイスでは、超伝導のオンオフを制御できる技術が重要です。東北大学大学院理学研究科の関根幹人 大学院生(現:東北大学金属材料研究所・理学研究科兼担)、福村知昭 教授(同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)兼務)らの研究グループは、岩塩構造を持つ希土類一酸化物の単結晶薄膜作製技術を活用して、重い電子系である一酸化セリウム(CeO)と超伝導体である一酸化ランタン(LaO)の二層膜を作製しました。

通常、超伝導を壊すためには磁石(強磁性体)の磁気的な性質を利用するのが一般的ですが、本研究では磁石の性質を持たない(非磁性)CeOが、隣接するLaOの超伝導を極めて強力に抑制する「対破壊近接効果」を持つことを明らかにしました。この発見は、磁気の影響を排除したい微小な超伝導デバイスの制御において、新たな設計指針を与えるものです。

本研究成果は、日本時間2026年7月10日に、学術誌 ACS Nano に掲載されました。

詳細な説明

研究の背景

次世代の計算機として期待される量子コンピューターや超伝導スピントロニクスにおいて、超伝導状態(注1)をナノスケールでオンオフ制御(破壊・スイッチング)する技術は不可欠です。これまでは、超伝導体と強磁性体を組み合わせる手法が主流でしたが、特に微小な素子では、強磁性体から発生する「漏れ磁場(浮遊磁場)」が周囲の素子に干渉するという課題がありました。

研究グループは、強い電子相関を持つ「重い電子系」(注2)に着目しました。重い電子系は磁性と密接に関係しながらも、必ずしも磁石の性質を持つとは限りません。これを高品質な界面(ヘテロエピタキシャル界面)で超伝導体と接合を作製することで、超伝導に及ぼす影響を調べました。今回用いた、重い電子系物質のCeOと超伝導体LaOは、研究グループが初めて合成した物質です。

今回の取り組み

本研究では、パルスレーザー堆積法を用い(図1)、酸化物基板上に岩塩構造(注3)のCeOとLaOを原子レベルで平坦に積み重ねた二層膜を作製しました(図2)。これらの物質は単位格子の大きさも近いため、二層膜の界面は原子レベルで平坦と考えられます。(図2)

その結果、単一のLaO薄膜は約5 Kで超伝導を示しますが、CeO(約5 nm厚)を積層したLaO(約20 nm厚)では、0.025 Kという極低温まで冷やしても超伝導が全く現れませんでした(図3)。また、磁気測定によると、このCeOは常磁性のため強磁性(磁石の性質)を示しません。つまり、磁気によるものではなく、CeO内の強力な電子相関や大きな有効質量を持つ電子が、LaO内の超伝導電子対をバラバラにする「対破壊効果」(注4)を引き起こしていると考えられます。

今後の展開

本成果により、磁石を使わずに超伝導を完全に抑制できることが実証されました。CeO/LaO接合は、次の4つの利点を備えています。(1)数ナノメートル厚のCeO層が隣接するLaO層の超伝導を抑制できます。(2)磁化の履歴(ヒステリシス)や外部磁場の影響を受けにくいため、外部環境の変化に強く、信頼性も高い素子が可能になります。(3)周囲の素子に悪影響を及ぼさないため、超伝導マイクロ・ナノデバイスや、高集積な量子回路、そして量子コンピューターの新たなプラットフォームとしての活用が期待されます。(4)ナノ厚のCeO層の積層で、最大20nm厚のLaOの超伝導を完全に抑制できるため、素子の特定の領域だけ超伝導をオフにするといった精密な制御に役立ちます。


図1. パルスレーザー堆積法の概略図。紫外(エキシマ)レーザーでLa金属を瞬間的に蒸発させると、微量の酸素を供給することで、単結晶基板の上に岩塩構造LaOの薄膜が形成する。続いてCe金属を蒸発させると、LaOの上にCeOの薄膜が形成し、二層膜ができあがる。

図2. CeO/LaO二層膜の結晶構造。LaOとCeOは同じ岩塩構造をもち、両者の格子定数が近いため、LaOとCeOの原子配列がそろう。したがって、LaOとCeOの界面が原子レベルで平坦になる。

図3. 層厚の異なるCeO/LaO二層膜(実線)、LaO薄膜(赤破線)、およびCeO薄膜(青破線)の電気抵抗の温度依存性。LaO薄膜単独では約5 K以下はゼロ抵抗状態を示すが、二層膜ではゼロ抵抗状態を示さず、有限の抵抗のままである。

謝辞

本研究は、日本学術振興会科研費(JP21H05008)、科学技術振興機構JST SPRING(JPMJSP2114)、東北大学学際高等研究教育院の支援を受けて行われました。また本論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』の支援を受け、Open Accessとなっています。

用語解説
注1. 超伝導
金属、合金、化合物などの温度を下げていくと、ある種の物質で電気抵抗がゼロ(ゼロ抵抗)になる現象。超伝導転移温度よりも低い温度で超伝導状態になる。超伝導状態では電子がペア(クーパー対)を組んで電流が流れる。電子が磁場印加や温度上昇等でペアを解消すると、超伝導が壊れる。
注2. 重い電子系
電子同士の強い反発力(電子相関)により、電子の有効的な重さが通常の100倍〜1000倍にもなったかのように振る舞う物質系。
注3. 岩塩型構造
食塩(NaCl)と同じ結晶構造。CeOやLaOなどの希土類一酸化物は、この単純な構造により高品質な接合を作りやすいという特徴がある。
注4. 対破壊近接効果
異なる性質の物質を接合した際、一方の性質が他方に浸み込み、超伝導の原因となる電子対(クーパー対)が壊される現象。

論文情報

タイトル: Fully Suppressed Superconductivity in Nonferromagnetic Heavy Fermion/Superconductor Bilayers: Rocksalt-type CeO/LaO
著者: Mikito Sekine, Masamichi Negishi, Satoshi Sasaki, Hidetatsu Yoshimura, Noriaki Kimura, Tomoteru Fukumura
掲載誌: ACS Nano
DOI: 10.1021/acsnano.6c00792

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学大学院理学研究科化学専攻
材料科学高等研究所(WPI-AIMR)兼務
教授 福村 知昭(ふくむら ともてる)(研究者プロフィール

Tel: 022-795-7719
E-mail: tomoteru.fukumura.e4@tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学大学院理学研究科
広報・アウトリーチ支援室

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E-mail: sci-pr@mail.sci.tohoku.ac.jp