酸化亜鉛量子ドットによる電荷検出・高周波反射測定と少数電子二重量子ドット形成に成功
酸化亜鉛量子ドットによる電荷検出・高周波反射測定と少数電子二重量子ドット形成に成功
─新材料次世代量子コンピューターに向けた研究加速に期待─
発表のポイント
- 酸化亜鉛半導体量子ドット(注1)デバイスで初めて、量子ドットを用いた電荷検出を実証しました。さらに、高速測定を可能にする高周波反射測定にも成功しました。
- これらの測定手法を用いて、半導体量子ビットの実現に不可欠な少数電子二重量子ドットの形成を確認しました。
- 本成果により、酸化亜鉛量子ドットを高精度かつ高速に評価するための基盤技術が確立され、新材料を用いた量子コンピューター(注2)の実現に向けた研究の進展が期待されます。
概要
半導体量子ドットは、量子コンピューターの基本単位である量子ビットを実現するプラットフォームとして研究されています。その中でも酸化亜鉛は、スピン量子ビットの動作時間を制限する要因となる核スピンが少なく、さらに直接遷移型半導体であるため光との相互作用も利用できることから、次世代の量子ビット材料として期待されています。
東北大学、物質・材料研究機構、東京大学からなる研究グループは、酸化亜鉛量子デバイスにおいて初めて、量子ドットを用いた電荷検出と高周波反射測定を実証しました。さらに、これらの測定手法を用いて、半導体量子ビットの実現に重要な少数電子二重量子ドットの形成を確認しました。
本成果により、酸化亜鉛量子ドットを高精度/高速に評価するための実験基盤が整いました。今後は、今回確立した測定手法と少数電子二重量子ドットを用いて、スピン緩和時間(注3)をはじめとする酸化亜鉛量子ドットの特性を明らかにするとともに、酸化亜鉛を用いた量子コンピューターの実現に向けた研究の進展が期待されます。
本研究成果は、2026年7月21日(現地時間)に科学誌Physical Review Appliedにオンライン掲載されました。
詳細な説明
研究の背景
量子コンピューターは、従来のコンピューターでは困難な計算を高速に実行できると期待される次世代の情報処理技術です。さまざまな方式の中でも、半導体量子ドット中の電子スピンを量子ビットとして利用する半導体量子コンピューターは、既存の半導体技術との親和性が高く、大規模集積化に適した方式として研究開発が進められています。
半導体量子ドットは、電子をナノメートルサイズの領域に閉じ込めた構造であり、これまでガリウムヒ素(GaAs)やシリコン(Si)を用いた研究が中心でした。一方、近年の薄膜成長技術の進展により、核スピンが少なく直接遷移型半導体であり、次世代量子ビット材料として期待される酸化亜鉛(ZnO)でも高品質な量子ドットデバイスの作製が可能となり、研究グループは2024年にZnO量子ドットの形成に成功しています [K. Noro et al., Nature Communications 15, 9556 (2024)]。
しかし、量子コンピューターへの応用に不可欠な量子ドットを用いた電荷検出や高周波反射測定は、ZnO量子ドットデバイスではこれまで実証されていませんでした。また、スピン量子ビットの実現に重要となる少数電子量子ドットについても、ZnOデバイスでの形成例はありませんでした。
今回の取り組み
東北大学大学院工学研究科の野呂康介大学院生(電気通信研究所配属)、同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の篠﨑基矢助教(現 産業技術総合研究所 研究員)、大塚朋廣准教授(同大学電気通信研究所兼任)、物質・材料研究機構ナノアーキテクトニクス材料研究センター(MANA)の小塚裕介グループリーダー、東京大学大学院工学系研究科の塚﨑敦教授、川﨑雅司教授(理化学研究所創発物性科学研究センターグループディレクター兼任)らの研究グループは、図1(a)に示すZnO量子ドットデバイス上に、測定対象となる二つの量子ドット(QD1、QD2)と、電荷センサとして機能する量子ドット(SQD)を形成しました。
まず、QD1とSQDを流れる電流を同時に測定したところ、QD1の電子数が変化するタイミングに対応してSQDの電流が鋭敏に変化することを確認しました(図2(a))。さらに、QD1では直接観測できない微小な電荷変化についても、SQDを用いることで検出できることを示しました。これにより、ZnO量子ドットデバイスにおいて量子ドットを用いた電荷検出が可能であることを初めて実証しました。
次に、SQDを組み込んだ共振回路を用いて高周波反射測定を行いました。その結果、反射信号から得られる測定結果(Vrf)が直流電流測定と一致することを確認し、ZnO量子ドットデバイスにおいて高周波反射測定が可能であることを初めて実証しました(図2(b))。高周波反射測定は、直流電流測定よりも高速に測定できることから、量子ビット状態読み出しなど高速な量子状態の評価への応用が期待されます。
さらに、これらの測定技術を活用することで、ZnO量子ドットデバイス上に少数電子二重量子ドットを形成することにも成功しました(図1(b))。また、高周波反射測定と量子ドットを用いた電荷検出について、それぞれの測定感度を評価し、ZnO量子ドットデバイスの高精度評価に有効であることを確認しました。
今後の展開
今回の研究により、ZnO量子ドットデバイスにおいて、量子ドットを用いた電荷検出、高周波反射測定、および少数電子二重量子ドットの形成を実証しました。これらは、ZnOを用いた量子ビット研究を進めるうえで重要な基盤技術となります。
今後は、今回確立した測定技術を活用してスピン読み出しやスピン操作を実証するとともに、スピン緩和時間やコヒーレンス時間などの詳細な評価を進めることで、ZnOを用いた次世代半導体量子コンピューターの実現に向けた研究の進展が期待されます。
図2. (a) QD1を流れる電流とSQDを流れる電流の比較。(b) SQDを流れる電流と高周波反射測定によって得られた信号の比較。
謝辞
本研究の一部は、JSPS科学研究費(JP22H04958, JP23H01789)、JST創発的研究支援事業(JPMJFR246L)等の支援を得て行われました。
用語解説
- 注1. 半導体量子ドット
- 半導体内部で電子を数十 nm程度の微小な領域に閉じ込めた構造。人工原子とも呼ばれ、量子力学的な現象を観測することができる。
- 注2. 量子コンピューター
- 量子力学的な効果を用いることにより、古典コンピューターでは難しかった計算を処理することができる次世代のコンピューター。
- 注3. スピン緩和時間
- 電子が持つスピンの向きの情報が失われるまでの時間。
- 注4. 電荷状態安定図
- 量子ドットを形成するゲート電圧を変化させることで、どのように状態が変わるのかを示す図。
論文情報
| タイトル: | Charge sensing of few-electron ZnO double quantum dots probed by radio-frequency reflectometry (高周波反射測定による酸化亜鉛少数電子二重量子ドットの電荷検出) |
|---|---|
| 著者: | Kosuke Noro, Motoya Shinozaki, Yusuke Kozuka, Koichi Baba, Kazuma Matsumura, Yoshihiro Fujiwara, Takeshi Kumasaka, Atsushi Tsukazaki, Masashi Kawasaki, and Tomohiro Otsuka |
| 掲載誌: | Physical Review Applied |
| DOI: | 10.1103/mnt5-s859![]() |
問い合わせ先
研究に関すること
東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
(兼)東北大学 電気通信研究所
(兼)東北大学 大学院工学研究科
(兼)東北大学 Tohoku Quantum Alliance (TQA)
(兼)東北大学 先端スピントロニクス研究開発センター
准教授 大塚 朋廣(研究者プロフィール)
| Tel: | 022-217-5509 |
|---|---|
| E-mail: | tomohiro.otsuka@tohoku.ac.jp |
報道に関すること
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 広報戦略室
| Tel: | 022-217-6146 |
|---|---|
| E-mail: | aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp |




