アセチレンから300 ℃での低温グラフェン形成を実現

2026年06月09日

アセチレンから300 ℃での低温グラフェン形成を実現

―未利用・余剰炭化水素ガスの高機能カーボン材料化に期待―

発表のポイント

  • 酸化セリウム(CeO2(注1)上でアセチレン(C2H2(注2)を化学気相成長(CVD)(注3)させると、酸素空孔(注4)形成に伴い、300 ℃という低温からグラフェン(注5)構造が形成されることを見出しました。
  • これを利用して、CVDの反応温度を制御することで、グラフェン量子ドット(注6)、凝集グラフェン、多孔性グラフェン(注7)といった多様なグラフェン系材料を作り分けることに成功しました。
  • 未利用・余剰炭化水素ガスを高機能カーボン材料へ変換する低温触媒炭素化プロセスの設計指針を示すものであり、資源循環型のカーボン材料創製への展開が期待されます。

概要

グラフェンは、高い導電性や化学的安定性をもつ高機能カーボン材料であり、電池、触媒、吸着材などへの応用が期待されています。一方、従来の化学気相成長(CVD)法では一般に900 ℃程度の高温処理が必要であり、低温で構造を制御しながらグラフェン系材料を合成することは困難でした。

東北大学およびロンドン大学クイーンメアリー校の研究グループは、酸化セリウム表面において、アセチレンの分解反応が酸素空孔の形成を伴いながら、113 ℃から始まることを見出しました。この性質を利用することで、300 ℃という低温のCVDでグラフェン構造が形成できることを明らかにしました。さらに、CVDの反応温度を調整することで、グラフェン量子ドット、凝集グラフェン、多孔性グラフェンを作り分けることに成功しました。本成果は、未利用・余剰炭化水素ガスや有機資源を高機能カーボン材料へ変換する低温炭素化プロセスの設計指針を提示するものであり、資源循環型カーボン材料創製への展開が期待されます。

本研究成果は、2026年6月8日(米国東部時間)、米国化学会の学術誌Journal of the American Chemical Societyに掲載されました。

詳細な説明

研究の背景

グラフェンは、炭素原子同士が化学結合して六角形が連なったシート状のカーボン材料であり、高い導電性や化学的安定性をもつことから、電池、触媒、吸着材、センサーなど幅広い分野での応用が期待されています。グラフェン系材料を作製する代表的な方法の一つに、炭化水素ガスを加熱して分解し、基板表面に炭素を成長させる化学気相成長(CVD)法があります。

しかし、従来のCVD法では、メタンなどの安定な炭化水素ガスを分解するために高温処理が必要であり、グラフェン形成が急速に進行してしまうため、構造制御に制約がありました。研究グループはメタンでなく比較的反応性の高いアセチレンを用いて低温でCVDを行うことで、グラフェンのサイズや構造を制御できると考えました。

今回の取り組み

東北大学材料科学高等研究所(以下、WPI-AIMR)のMengxuan Zhang特任助教、同大学多元物質科学研究所の吉井 丈晴 准教授、WPI-AIMRの西原 洋知 教授らの研究グループは、酸化セリウムが表面に酸素空孔を形成しやすい性質に着目し、この特性を利用することで、低温でもアセチレンを活性化できるのではないかと考えました。実際、酸化セリウム上でのアセチレン分解温度を調べたところ、113 ℃という極めて低い温度から分解が始まることが分かりました。そこで、アセチレンを炭素源とするCVDを行ったところ、300 ℃以上において酸化セリウム上でグラフェンが形成されることが分かりました。

CVD反応中において酸化セリウム表面の状態を調べたところ、300 ℃では反応時間の増加とともにCe3+の割合が増加しました(図1a)。これは、アセチレンによって酸化セリウム表面から酸素が引き抜かれ、酸素空孔が生成したことを意味します。生成した酸素空孔は、さらにアセチレンを吸着・活性化する触媒反応点として働き、低温でのグラフェン成長を促進していることが分かりました(図1b)。

さらに、CVDの温度がカーボン材料の構造形成に与える影響を検討しました。CVDを行った後に酸化セリウムを除去した結果、300 ℃のCVDでは紫外線(UV)照射下で青色発光を示すグラフェン量子ドット、450 ℃では凝集グラフェン、600 ℃では高比表面積の多孔性グラフェンが得られることが分かりました(図2)。以上のように、アセチレンと酸化セリウムの組み合わせを用いることで、多様なグラフェン系カーボン材料を作り分けることに成功しました。

このような構造の違いは、低温では孤立した小さなグラフェンシートが形成される一方、温度の上昇に伴ってシート同士の連結が進行し、より大きなグラフェンシートへと成長したことに由来すると考えられます。すなわち、酸化セリウム上で300 ℃という低温からグラフェン構造を形成できることが重要であり、この特性を利用することで、カーボン材料の構造制御も可能となることを示しました。

今後の展開

本成果は、低温で炭化水素ガスを高機能カーボン材料へ変換する触媒設計の基盤を与えるものです。アセチレンは余剰炭化水素ガス、低品位炭素資源、廃プラスチックやバイオマス由来分子などからも生成可能であることが知られています。そのため、本成果は、多様な有機炭素源を高機能カーボン材料へ変換する技術へと展開できる可能性を有しています。

さらに本技術では、反応温度を制御することで、グラフェン量子ドットや多孔性カーボンなどを用途に応じて作り分けられる点が特長です。こうした技術は、未利用有機物や有機ガスを既存の燃料利用・低分子リサイクルにとどめず、高付加価値なカーボン材料として固定化・循環利用する「アップグレード型」の炭素資源利用につながります。

以上のように、本成果は低温・省エネルギー型のカーボン材料製造プロセスの実現と、未利用炭素資源の高付加価値化への貢献が期待されます。実用化に向けては、酸化物基板材料の種類・形状・酸素空孔密度を制御し、炭素源をアセチレン以外の炭化水素ガスや有機資源へ拡張することが重要です。さらに、スケールアップ性、経済性、ライフサイクルアセスメントの観点からの検討も将来の実用化へのステップとなります。研究グループでは今後、上記の点についても研究を進めていきます。


図1. (a)300℃におけるCVDに伴うCe3+割合の増加。(b)酸素空孔を介したアセチレンからのグラフェン形成の模式図。


図2. 反応温度によるグラフェン系材料の構造制御

謝辞

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR24S6)、同 さきがけ(JPMJPR23QA)、内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「マテリアル事業化イノベーション・育成エコシステムの構築」(JPJ012307)、公益財団法人近藤記念財団(2023-01)、「物質・デバイス領域共同研究拠点」における「人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス」、Leverhulme Trust(RPG-2023-239)の支援を受け実施しました。

用語解説
注1. 酸化セリウム(CeO2
セリウムと酸素からなる酸化物。Ce4+/Ce3+の可逆的な酸化還元により高い酸素貯蔵・放出能を示し、自動車排ガス浄化触媒や酸化還元触媒などに広く用いられている。また、酸素空孔を形成しやすいことも大きな特徴である。
注2. アセチレン(C2H2
炭素2個と水素2個からなる炭化水素ガスであり、化学合成や溶接など工業的にも広く利用されている。本研究では、低温でグラフェン系材料を形成するための炭素源として用いた。
注3. 化学気相成長(CVD)法
気体原料を加熱などによって分解・反応させ、基板表面に薄膜や固体材料を成長させる手法。グラフェンやカーボンナノチューブをはじめとする炭素材料の合成にも広く利用されている。
注4. 酸素空孔
酸化物結晶中において、本来存在するはずの酸素原子が欠損した原子レベルの欠陥。分子の吸着や活性化に関与する反応点として働くことがあり、酸化物触媒の反応性を左右する重要な因子である。
注5. グラフェン
黒鉛を構成する、炭素原子から成るシート状の物質。炭素原子同士が化学結合して六角形が連なった平面(六角網面)を形成している。炭素原子が形成する六角形は6員環とも呼ばれる。強度が強い、電気伝導性・熱伝導性が非常に高いといったユニークな特徴を有する。
注6. グラフェン量子ドット
ナノメートルサイズのグラフェン断片からなる炭素材料。量子サイズ効果により特徴的な発光特性を示すことがあり、発光材料、センサー、バイオイメージングなどへの応用が期待されている。
注7. 多孔性グラフェン
グラフェン由来の炭素骨格が三次元的に連結し、多数の細孔を有する材料。高い比表面積を示すため、電池電極、触媒担体、吸着材、スーパーキャパシタなどへの応用が期待される。

論文情報

タイトル: Defect-Mediated Catalysis for Low-Temperature Formation of Graphene-based Materials
著者: Mengxuan Zhang, Takeharu Yoshii, Qi Zhao, Yuichiro Hayasaka, Devis Di Tommaso, Hirotomo Nishihara
掲載誌: Journal of the American Chemical Society
DOI: 10.1021/jacs.5c20150

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学多元物質科学研究所
准教授 吉井丈晴(研究者プロフィール

Tel: 022-217-5627
E-mail: takeharu.yoshii.b3@tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 広報戦略室

Tel: 022-217-6146
E-mail: aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp

科学技術振興機構 広報課

Tel: 03-5214-8404
E-mail: jstkoho@jst.go.jp

JST事業に関すること

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
安藤 裕輔

Tel: 03-3512-3526
E-mail: presto@jst.go.jp