水に浮くほど軽い熱電変換材料を実現

2020年11月26日

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)
東北大学多元物質科学研究所
山形大学
北海道大学
名古屋工業大学

水に浮くほど軽い熱電変換材料を実現

ミクロな蜂の巣構造のガラスを半導体に変換

発表のポイント

  • 蜂の巣(ハニカム)状にミクロな孔のあいたガラスをMg蒸気中で加熱することで、その形状を維持して熱電変換材料※1として知られるMg2Si半導体の合成に成功。
  • 無機材料でありながら水や有機溶媒に浮くほど軽量なMg2Siハニカム多孔体を実現。
  • Mg2Siの多孔体化により熱電変換効率の向上に必須の高電気伝導率と低熱伝導率の両立を実現へ。

概要

エネルギー効率の改善やCO2の大幅削減を図るために、資源的に豊富な元素で構成される軽量かつ高効率な熱電変換材料が望まれます。

東北大学材料科学高等研究所藪浩准教授(ジュニアPI・東北大学ディスティングイッシュトリサーチャー)、東北大学多元物質科学研究所山田高広准教授、山形大学松井淳教授、および北海道大学、名古屋工業大学からなる研究グループは、熱電変換材料として知られるマグネシウムシリサイド(Mg2Si)ハニカム多孔体の新規合成法を開発しました。

得られたMg2Siハニカムは、無機材料でありながら水や有機溶媒に浮くほど軽く、電気伝導率を保持したまま、1層のハニカム構造あたり熱伝導率を11%低減できることが明らかとなりました。今後、高効率で軽量な熱電変換素子の実現に向けてデバイス化を進めることで、低炭素社会実現への貢献が期待されます。

本成果は米国化学会の雑誌であるChemistry of Materials誌のオンライン版に2020年11月25日(米国東部時間)に掲載されました。

図1.ガラス(SiO2)コートポリブタジエンハニカムのMg蒸気アニーリングによるMg2Siハニカム形成の模式図(孔のサイズは約5µm)

詳細な説明

1. 研究の背景

発電所や自動車などの熱効率は40〜60%程度であり、残りのエネルギーは廃熱として環境に放出されています。熱電変換材料により直接これらの廃熱を電気として取り出すことができれば、熱効率の改善やCO2の大幅な削減につながると期待されています。そのためには、高効率かつ軽量、資源制約の無い化合物から形成された熱電材料が必要です。

従来の熱電変換材料としてはビスマステルル系の金属間化合物が主に用いられてきました。しかしこれらの元素は希少元素である上、密度が大きく(>7g/cm3)、熱電変換効率が最大となる温度が室温付近であるなど、産業廃熱や自動車などの廃熱を利用するには不向きでした。

Mg2Siは資源が豊富な元素から成る熱電変換材料であり、軽量でその最適温度は300℃程度と、産業廃熱に適した性能を持つ一方、熱伝導率が高いため、変換効率が低いという課題がありました。熱電変換材料の効率向上には材料の電気伝導率を保ったまま、熱伝導率を低減することが重要であるため、これまでの粒状のMg2Siを押し固めて加熱するなどして多孔体化することで空気による断熱層を設け、熱伝導率を低下させる試みがなされてきましたが、この様な方法では、電気伝導率も低下するという問題がありました。

2. 研究内容と成果

これまで研究グループでは、プラスチックポリマーの溶液を塗布し、高湿度の条件で乾燥・製膜すると水滴を鋳型としてサブミクロンから数十ミクロンサイズの空孔が規則正しく形成したハニカム膜が作製できることを見出し、その工業化プロセスの開発を行ってきました。またごく最近、ポリマーハニカム膜に独自のプロセスでガラス(SiO2)膜をコートする技術を開発し、表面物性の制御などを行ってきました。

今回研究グループでは、ガラスコートしたポリブタジエン(PB)ハニカム膜をMgと共にステンレスチューブ中に封入し、725℃でアニーリングを行うことでMg蒸気処理を行い、シリカコートPBハニカムをMg2Siハニカムに形状を保ったまま変換することに成功しました(図2)。

詳細な化学分析の結果、アニーリング温度が600〜650℃ではシリカが還元されてSiとアモルファスカーボンが主に形成されること、725℃では主にMg2Siが形成されることが明らかとなりました。形状観察の結果、どのアニーリング温度でも鋳型となるポリマーハニカム膜と同様の多孔構造が維持されていました。

得られたMg2Siハニカムは、無機材料でありながら水や有機溶媒に浮くほど軽く(図3)、電気伝導率を保持したまま、多孔構造により6割以上の気孔率を持つため、1層のハニカム構造あたりの熱伝導率を11%低減できることが明らかとなりました。シリカコートPBハニカム膜は積層することも可能であるため、本結果は積層したMg2Siハニカムが形成できる可能性、および積層Mg2Siハニカムによる高効率で軽量な熱電変換素子の実現につながる成果です。

今後デバイス化を進めることにより、高効率で軽量な熱電変換素子による廃熱からのエネルギー変換を実現させ、低炭素社会実現への貢献が期待されます。

本成果は米国化学会の雑誌であるChemistry of Materials誌のオンライン版に2020年11月25日(米国東部時間)に掲載され、成果の内容を示した図がSupplementary Coverにも採択されました。

図2.Mg2Siハニカムの作製方法とシリカコートPBハニカムおよびMg2Siハニカムの電子顕微鏡写真

図3.水に浮くMg2Siハニカムの写真

用語解説
※1 熱電変換材料
温度差を電気に変えることができる半導体物質。n型とp型があり、これら2種の熱電変換材料を接合し、その両端に温度差を生じると起電力が生じ、発電できる。

掲載論文

著者名 Hiroshi Yabu*, Yasutaka Matsuo, Takahiro Yamada, Hirotaka Maeda, Jun Matsui
論文題名 Highly Porous Magnesium Silicide Honeycombs Prepared by Mag-nesium Vapor Annealing of Silica-Coated Polymer Honeycomb Films toward Ultrarightweight Thermoelectric Materials
掲載論文 Chemistry of Materials
DOI: 10.1021/acs.chemmater.0c03696新しいタブで開きます

問い合わせ先

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藪 浩
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