超極細チタン酸ナノワイヤーの作製手法の開発

2015年04月16日

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)

超極細チタン酸ナノワイヤーの作製手法の開発

-優れたストロンチウムイオン吸着能-

概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の浅尾直樹教授の研究グループと同機構の中山幸仁准教授の研究グループは、チタンアルミ合金をアルカリ水溶液(水酸化ナトリウム)に室温で浸漬するという非常に簡便な手法により、極めて細いチタン酸ナノワイヤーを高効率で作製することに成功しました。またこのナノワイヤーはストロンチウムに対して優れたイオン吸着能を持つことを明らかにしました。今回開発されたナノワイヤーは、高機能性触媒材料、ナトリウム電池電極材料、重金属吸着材料など幅広い分野で利用できる可能性があること、そしてこの作製手法は他の金属酸化物のナノ材料化への応用も期待されることから、ナノテクノロジー研究の発展に大きく道を開くものです。
本研究成果は、米国化学会誌 Nano Lettersに近日中に掲載されます。

研究の背景

カーボンナノチューブやシリコンナノワイヤーなどに代表される一次元ナノ材料は、ナノサイズに特有な優れた機能性を発現することが知られています。中でもチタン酸化合物(※1)は、優れた誘電特性や半導体特性、光触媒活性など様々な機能を有する優れた材料であり、そのナノワイヤー(※2)はこれまで水熱合成法(※3)やゾルゲル法(※4)などにより合成されてきました。しかし、作製過程の熱処理に伴い結晶成長が進みワイヤー径が拡張することが知られており、比表面積を向上させるため更に細いワイヤーの合成法の開発が期待されていました。

研究内容と今後の展開

今回東北大学の研究グループは、チタンアルミ合金を出発原料として、これを水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する極めてシンプルな方法により、チタン酸ナトリウムナノワイヤーを高収率で作製することに成功しました。この作製法は直径の増大をもたらす熱処理が不要であるため、これまで作製されたナノワイヤーに比べ、直径が数ナノメートルという極めて細いナノワイヤーを作製することが可能になりましました。得られたナノワイヤーは無数に絡み合ってマリモのような特徴的な集合体をつくり(図1)、これを更に拡大するとナノワイヤーが生成していることがわかります(図2)。このナノワイヤーの結晶構造は、X線構造解析法(※5)や高分解能透過電子顕微鏡法(※6)により、ナトリウム原子層が酸化チタン層にサンドイッチされた層状構造であることを明らかにしました(図3)。層状構造を有する金属酸化物は、イオン交換(※7)によって様々なイオンを吸着することが知られており、特にチタン酸ナトリウムは、放射性ストロンチウムイオンの吸着材として研究が進められています。今回作製したナノワイヤーの吸着能を評価したところ、従来の材料と比べてより多量のストロンチウムイオンを吸着することが可能であり、なおかつイオン交換速度が極めて速いことを明らかにしました(図4)。今後は海水など様々な金属イオンを含む条件でストロンチウムイオンを選択的に吸着するかどうかを検証する実験を行うなど、実用化に向けた取り組みを進めていく予定です。

付記事項

本研究成果は、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の石川敬章(学生)、着本享研究員(現 JFEテクノリサーチ株式会社・国立研究開発法人産業技術総合研究所)、中山幸仁准教授、浅尾直樹教授との融合研究によるものです。また本研究の一部は、日本学術振興会(特別研究員(25-10331、石川敬章))、日本学術振興会科学研究費補助金(挑戦的萌芽(25630291、代表:着本享))、(基盤研究B(25286019、代表:中山幸仁))、(基盤研究B(25286012、代表:浅尾直樹))、独立行政法人科学技術振興機構(A-STEP(H25 仙台II-463、代表:中山幸仁))より研究助成を受け、東北大学ナノテク融合技術支援センターを利用して実施されました。

参考図

pr_150410_01.jpg図1

pr_1500410_02.png図2

pr_1500410_03.png図3

pr_1500410_04.png図4

用語解説

※1 チタン酸化合物
チタン、酸素、及びアルカリ金属などから成る化合物。光触媒として用いられるチタン酸ストロンチウムや、圧電素子としてのチタン酸バリウム等の様々なチタン酸化合物が注目を集めています。
※2 ナノワイヤー
1ナノメートルは1/10億メートル。厳密な定義はありませんが、おおよそ数ナノメートルから1マイクロメートル(=1000ナノメートル)までの直径を持つ細線構造をナノワイヤーと呼んでいます。様々な種類のナノワイヤーが発見、開発されており、金属(金、銀、ニッケル、パラジウムなど)、半導体(シリコン、ゲルマニウム、CdS、ZnO、GaNなど)のナノワイヤーがあり、更には、高分子ナノファイバーやアモルファス合金ナノワイヤーなども盛んに研究が進められています。
※3 水熱合成法
水を溶媒として高温高圧下で行われる化合物の合成法。常温常圧では水に溶解しない物質も容易に溶解することができるため、様々な化合物の合成法として利用されています。チタン酸化物の場合、例えば二酸化チタンをアルカリ水溶液中で圧力鍋のように容器を密閉したまま100℃以上に加熱することにより、様々なナノ構造を持つチタン酸化物を得ることができます。
※4 ゾルゲル法
セラミックスなどを合成する方法の一つで、アルコキシド系ゾルを加熱などによりゲル状態とし、その後に乾燥することで酸化物構造体を得る方法。チタン酸化合物をゾルゲル法で合成する場合には、オルトチタン酸テトラエチルなどのアルコキシドの加水分解と重合反応によって、ナノ構造体を合成する例が報告されています。
※5 X線構造解析法
X線を照射して、その回折パターンから結晶の立体構造を決定する手法。X線結晶構造解析は、無機及び有機結晶の立体構造情報を取得する主要な方法となっています。
※6 高分解能透過電子顕微鏡法
電子顕微鏡の一種で、観察対象である薄片化試料や、ナノワイヤー試料に対して電子線を照射し、透過してきた電子や散乱された電子を結像することにより拡大して観察する電子顕微鏡のこと。数百倍から数百万倍の倍率で拡大像が得られ、原子レベルの観測が可能です。
※7 イオン交換
ある種の不溶性の塩を電解質の溶液に混ぜた際に、溶液に含まれるイオンを取り込み代わりに自らの持つ別種のイオンを放出する現象。この性質は、有害なイオンの除去や、水の軟化などに用いられています。

論文情報

Yoshifumi Ishikawa, Susumu Tsukimoto, Koji S. Nakayama, and Naoki Asao
Ultrafine Sodium Titanate Nanowires with Extraordinary Sr Ion-Exchange Properties.
Nano Letters

問い合わせ先

研究に関すること

浅尾 直樹 (アサオ ナオキ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)教授

TEL : 022-217-6165
E-mail : asao@m.tohoku.ac.jp

中山 幸仁 (ナカヤマ コウジ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 准教授

TEL : 022-217-5950
E-mail : kojisn@wpi-aimr.tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 広報・アウトリーチオフィス

TEL : 022-217-6146
E-mail : outreach@wpi-aimr.tohoku.ac.jp