黒鉛からグラフェン分散液を作製する簡便で安全な方法を開発

2015年04月13日

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)

黒鉛からグラフェン分散液を作製する簡便で安全な方法を開発

—細胞培養の効率化などグラフェンの生物医療分野への応用へ前進−

概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のアハディアン助教、末永智一主任研究者、カデムホッセイニ主任研究者らの研究グループは、物質・材料研究機構若手国際研究拠点(NIMS-ICYS)のエスティリ研究員らと共同で、安全で簡単に黒鉛からグラフェンを剥離して水に溶かす技術の開発に成功しました。
これまでのグラフェン分散水溶液の作製方法では、人体に有害な化学物質を用いてグラフェンを剥離するか、あらかじめグラフェンを用意してアルブミンと混ぜ合わせる必要がありました。本研究では、黒鉛とウシ血清由来のタンパク質であるアルブミン*1)を、濃度を調整しながら混ぜ合わせ、室温で超音波を照射することでグラフェン分散液の作製に成功しました。これによって、黒鉛からグラフェンを剥離して水溶液に溶かし分散させるまでを、有害な物質を使用することなく作成することができます。さらに、細胞培養の足場となるハイドロゲルに、作製したグラフェン分散液を混ぜると、ゲルの性能が向上することを発見しました。今後、グラフェンを生体材料へ応用するうえで、基盤技術となることが期待できます。
この研究成果は、物質・材料研究機構(NIMS)と東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)との共同研究であり、2015年4月21日号の「Nanoscale」誌に掲載されます。

pr_20150413_01.png図1 水中に黒鉛とアルブミンを入れ、超音波処理すると、安定なグラフェン分散水溶液ができた。右の写真と図はグラフェンの透過型電子顕微鏡写真と、アルブミンのアミノ酸残基とグラフェンの相互作用をシミュレーションした結果。

研究の背景

グラフェンは、原子一層分の厚みをもつ炭素ナノシートであり、情報・通信やエネルギー分野で重点的な研究開発が推進されています。近年、ドラッグデリバリーや光熱癌治療など生物医療分野でもグラフェンが注目されてきています。さらに、高い導電性や機械強度を持つグラフェンのユニークな物性を活かし、組織工学の足場材料やバイオセンサーの開発がおこなわれています。しかし、グラフェンはもともと水となじまない性質をもつため、生物・医薬の分野での応用可能性をひろげるために、グラフェンを親水化し、水溶液に分散させた状態で大量に製造する技術の開発が切望されてきました。
これまでに、水を含む様々な種類の溶媒を用いて、液体中で黒鉛(グラファイト)に超音波を照射し、ナノメートルスケールのグラフェンを剥離・分散させる技術が開発されていました。しかし、これらの製造工程は複雑であり、有害な化学物質を併用することが必要でした。また、グラフェンにたんぱく質を混ぜて溶液中に分散することも可能ですが、事前にグラフェンを大量に用意する必要があります。そこで、黒鉛から危険な化学物質を使用することなくグラフェンを剥離・分散させる技術の開発に挑みました。

研究内容

本研究グループは、グラフェンの原料となる黒鉛と、ウシ血清由来のタンパク質であるアルブミンを用いて実験を行いました。黒鉛とアルブミンの重量比をコントロールしながら混ぜて室温で超音波照射を行った結果、アルブミンがグラフェンの表面を覆い黒鉛から剥離し、100ナノメートルから数マイクロメートルの面積をもつタンパク質‐グラフェン複合体を水中で安定に分散させることが可能であることがわかりました。グラフェンの物性を透過型電子顕微鏡や紫外‐可視分光、ラマン分光、XPSなどにより詳細に解析したところ、タンパク質‐グラフェン複合体の炭素層が原子数層以下であることが確認されました。
また、ガラス基板上にグラフェン分散液を滴下して自然乾燥させた薄膜を作製すると、表面にナノメートルサイズの凹凸をもつ機能性基板が形成され、細胞培養に応用可能であることが確かめられました。さらに、ハイドロゲルにグラフェンを混ぜると、ゲルの導電率と機械強度が向上しました。このハイブリッド材料は、電気刺激応答性の筋細胞などの分化・成熟を促進する新しい足場材料として応用が期待されます。

今後の展開

今回の研究成果は、AIMRの研究グループが開発を進めてきたハイドロゲル‐炭素ナノ材料複合体を作製する研究の中で、炭素系ナノ材料を大量に入手し取り扱うための基盤技術と位置付けることができます。また、タンパク質であるアルブミンでグラファイトからグラフェンの作製を促進することができたため、アルブミン以外にも水溶性のタンパク質が広く候補に挙がってくる可能性があり、バイオマテリアル分野への応用が期待できます。
グラフェンを生体材料へ応用するには、細胞毒性試験を含め、これからも多面的な評価を積み上げていくことが必須ですが、グラフェンの安全性が確認されれば、今回の手法は将来的に、ドラッグデリバリーや光熱癌治療、体内埋め込み型素子、バイオセンサーや生体外組織モデルを構築するうえでの基盤技術になることが期待できます。

用語解説

※1 アルブミン
動物の血中に含まれるもっとも主要なタンパク質。

論文情報

タイトル : Facile and green production of aqueous graphene dispersions for biomedical applications,
著者 : Samad Ahadian, Mehdi Estili, Velappa Jayaraman Surya, Javier Ramón-Azcón, Xiaobin Liang, Hitoshi Shiku, Murugan Ramalingam, Tomokazu Matsue, Yoshio Sakka, Hojae Bae, Ken Nakajima, Yoshiyuki Kawazoe and Ali Khademhosseini,
雑誌名 : Nanoscale, Volume 7, Number 15 (21 April 2015), page 6436-6443.
DOI :

10.1039/c4nr07569b(新しいタブで開きます)

 

問い合わせ先

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珠玖 仁(シク ヒトシ)
東北大学大学院環境科学研究科 准教授

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