横山准教授が小型自動アーク溶解炉を開発

2012年11月07日

研究概要

東北大学は、アーク溶解法における自動化に於いて必要な自動反転技術、溶湯攪拌技術を大亜真空株式会社と共同開発し、同社から「小型自動アーク溶解炉」として発売されます(図1参照)。従来のアーク溶解炉は自動化が困難であると言われていましたが、本技術の開発により初めて自動化を可能にしました。共同開発した複数の技術について、東北大学と大亜真空株式会社との共同出願で特許を申請しております。

研究背景と経緯

汎用のアーク溶解炉は水冷銅るつぼを用いるため、るつぼからの汚染が無く、高融点の金属の溶解も可能で、しかもアーク溶接の電源を転用できるため高周波溶解法などの他の溶解法に比べて安価であるという利点がありました。一方で、外熱法で攪拌能が十分でないため均一な溶解を達成するために、被溶解物を溶解後反転して再溶解する工程を数回繰り返す必要がありました。この溶解時の煩雑な作業が自動化をする上での大きな問題となっていました。そこで、自動反転機構とアーク溶解法における攪拌機構を中心に共同開発を行い、自動アーク溶解炉を可能にする技術開発に成功しました。本技術開発は、生体材料や電池材料そしてバルクアモルファス合金などの製造に適しており、高純度を要求される材料の量産が可能な新しい製造方法として期待されています。

研究内容と今後の展開

被溶融金属を溶解後に反転させるため、るつぼである水冷銅炉床の内部構造を球の一部分としています。反転には回転する治具を用いてインゴットを引っかけて治具と一緒に回転反転させる構造を有しています(図2参照)。本反転機構は、既存の汎用アーク溶解炉にも応用が可能で、自動化のみならず溶解作業の簡略化にも寄与すると期待しています。一方、充分な攪拌能を持たせるために、直流放電であるアークの放電電流をサイン波状に制御することで、溶融金属を単振動させることに成功しました(図3、4参照)。溶融金属の振動は単振動的な状態で振幅が最大になり、十分な攪拌効果が期待することが出来ます。この振幅と周波数の制御はコンピュータで自動的に行われ、合金化の進行に伴う溶融合金粘性の変化に対応して攪拌条件(周波数など)を自動で最適化しています。
本小型自動アーク溶解炉を用いることで、合金や鋳造製品(単純形状に限る)の量産化は可能になり産業貢献が期待できますが、研究にとっても利点が期待できます。本開発装置は、その全ての動作をコンピューター(LabVIEW : National Instruments Co. )で制御しているため、インターネットに接続をすることで世界中のどこからでも本装置を操作することが可能になります。一方、東北大学金属材料研究所は、全国共同利用に取り組んでおりますが、共同利用研究者の中には思うように試料作製が行えず訪問期間のほとんどを試料作製に費やすケースが見られました。本開発装置を用いることで、開発者の所属する金属ガラス総合研究センターで行っている全国共同利用の他大学の先生が、本所に訪問する前に、試料作製を予備的に遠隔操作で実験することで効果的な共同研究の推進をすることが可能になるものと期待しております。また、東北大学原子分子材料科学高等研究機構においても国際的な共同研究を中心に行っておりますが、本開発装置は海外からもインターネットを経由した操作が可能である事から、遠く離れた研究者との有機的な連携を維持・推進していくためにも大いに役立つものと期待しております。

参考図


図1 開発装置の外観


図2 自動反転機構(特許申請済)


図3 溶湯攪拌機構(特許申請済)


図4 溶湯攪拌の様子を示すスローモーション動画(11Hzで振動)

用語解説

1. アーク溶解法
ここで取り扱うアーク溶解法は、タングステンの電極(カソード)と水冷銅炉床(アノード)を用いて行う汎用のアーク溶解法です。アーク溶解法は、高融点金属の溶解も可能で、比較的短時間で溶解でき、しかも安価であるため、実験室での材料作製に広く使われてきました。
2. バルクアモルファス合金
ランダムな構造を有する固体(アモルファス:非晶質)で、しかも1mm程度以上の肉厚を有する材料をいいます。金属ガラスという名称でも知られております。アモルファス合金は液体状態から急速に冷却することで得られますが、バルクアモルファスも同様に金型鋳造等で比較的速く冷却することで得ることができます。

参考サイト

問い合わせ先

横山 嘉彦 准教授
東北大学 金属材料研究所 金属ガラス総合研究センター
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(兼務)

TEL : 022-215-2199
E-MAIL : yy@imr.tohoku.ac.jp

長嶋 秀治
大亜真空株式会社

TEL : 047-459-7628
E-MAIL : nagasima@diavac.co.jp