熊谷明哉研究員と一杉太郎准教授の研究グループ 透明超伝導体の転移温度で、世界記録を更新

2012年09月19日

初めて液体ヘリウム温度を超え、光エレクトロニクスデバイスへの応用に弾み

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の熊谷明哉研究員と一杉太郎准教授らの研究グループは、可視光の透過率が60%以上であり、なおかつ13ケルビンの超伝導転移温度を有する"透明超伝導体"の作製に成功しました。

今回作製された透明超伝導体は、従来から超伝導体として知られていたLiTi2O4薄膜の合成を極めて精緻に行うことで実現しました。13ケルビンという超伝導転移温度は、透明な超伝導体としては世界最高の温度であり、液体ヘリウム温度(4ケルビン)を越えたことで、これまでに比べ簡易に超伝導の実験を行うことが可能となります。そのため、超伝導を用いた発光素子やセンサーなど、新規光エレクトロニクスデバイスの開発に大きく道を拓くものです。また、室温においても透明性が高く、かつ電気抵抗率が低いため、透明導電体として実用化できる可能性も持っております。
本研究成果は、2012年9月17日に「Applied Physics Letter」のオンライン速報版で公開されます。

研究背景と経緯

超伝導とは、電気が物体の中を抵抗なく流れる現象のことで、エネルギーをロスなく伝えられるため、現在のエネルギー問題を解決する技術の一つとして注目されています。超伝導は極低温でしか現れない現象とされ、超伝導の性質が現れる温度(超伝導転移温度)をいかに高くするかといった研究が盛んに進められています。現在では、超伝導磁石や磁気センサ(SQUID)としての実用化も進みつつあります。これら従来の研究で用いられてきた超伝導体は、主に金属材料であり、金属光沢のある色をしています。また、1986年に発見された酸化物高温超伝導体はどれも黒色をしており、透明性と超伝導は相いれないものと思われてきました。
一方で、透明でありながら電気が流れる物質は、我々の生活に深く関わっており、なくてはならない材料となっています。そのような材料は透明導電体と呼ばれ、液晶ディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、センサー、白色発光ダイオードなど、光エレクトロニクスの分野で広く活躍しています。透明性と超伝導の性質をあわせ持った材料が実現されれば、デバイスの大幅な省エネルギー化や高感度化が可能となり、新規光エレクトロニクスデバイスの開発などさまざまな応用が期待されます。しかし、実際にはこれまで、液体ヘリウム温度(4ケルビン)以上の超伝導転移温度を示す透明超伝導体は存在しませんでした。もし4ケルビン以上の超伝導転移温度を実現することができれば、液体ヘリウムを用いた超伝導現象の観察が可能となり、透明超伝導体の研究が飛躍的に進む可能性があります。

研究内容と展開

本研究グループは、リチウムを含む酸化物の薄膜成長過程を丹念に追い、原子レベルで薄膜成長を理解しつつ物質合成する技術を磨きました。具体的には、薄膜内のリチウム量の調整、あるいは成膜時の温度制御、エピタキシャル成長(※1)用基板の選択を進め、合成条件の最適化を行いました。その結果、高品質なLiTi2O4薄膜成長に成功し、可視光透過率が60%以上(厚み約170nm)、室温での電気抵抗率3.3x10-4 Ωcmを示す薄膜を合成しました(図1)。この超伝導転移温度を計測した結果、13ケルビンで超伝導転移することが明らかになりました(超伝導転移温度が12ケルビンの資料のデータを図2に示す)。今後研究が進めば、超伝導を活用した発光素子やセンサー等、省エネルギーや高感度を特徴とした新規光エレクトロニクスデバイスの研究に弾みがつくことが期待されます。また、今回合成に成功したLiTi2O4薄膜は、室温においても透明性が高く、かつ電気抵抗率が低いため、透明導電体としても実用化できる可能性を持っています。特に今回作製した薄膜では、従来の透明導電体で広く使われている希少金属インジウムに代わりチタンを使っているため、希少元素を用いない代替材料としての可能性も秘めています。
今年は1911年に超伝導現象が発見されてから101年となります。超伝導研究の新たな100年を歩みはじめる一歩として、LiTi2O4薄膜がなぜ透明なのか、あるいは超伝導状態においてどのような光学的な性質を持つのか等、メカニズムの解明に向けた研究が期待されます。

付加事項

本研究成果は、一部、最先端研究開発支援(FIRST)プログラム「高性能蓄電デバイス創製に向けた革新的基盤研究」(中心研究者:水野哲孝)、NEDO、東北大学極低温科学センターの野島勉准教授の支援を受けて行われました。

参考図


図1 LiTi2O4透明超伝導体の写真。基板の下のLiTi2O4という文字がはっきりと見える。
膜の厚みは約170nm。可視光で約60%の透過率を示す。


図2 約12ケルビンで超伝導転移を示すデータの例。磁化(magnetization)を測定し、
シグナルがマイナスになると超伝導状態になっている事を示している。

用語解説

※1 エピタキシャル成長
薄膜成長の際、基板の影響を受けて、薄膜の方位がそろいつつ成長することを指す。

論文情報

論文タイトル
Growth processes of lithium titanate thin films deposited by using pulsed laser deposition
著者
Akichika Kumatani, Takeo Ohsawa, Ryota Shimizu, Yoshitaka Takagi, Susumu Shiraki, and Taro Hitosugi
掲載雑誌
Applied Physics Letter

問い合わせ先

研究に関すること

一杉太郎 准教授
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
TEL : 022-217-5944
E-MAIL : hitosugi@wpi-aimr.tohoku.ac.jp

報道担当

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)アウトリーチオフィス
TEL : 022-217-6146
E-MAIL : outreach@wpi-aimr.tohoku.ac.jp