新素材「グラフェンメソスポンジ」の安価な製造法を開発

2021年06月01日

東北大学 材料科学高等研究所
東北大学 多元物質科学研究所

研究成果のポイント

  • 多孔性と耐久性を両立したカーボン新素材「グラフェンメソスポンジ(GMS)」(注1)の安価な製造法を開発しました。
  • グラフェンメソスポンジは、スーパーキャパシタ、リチウムイオン電池、燃料電池、リチウム硫黄電池、全固体二次電池、空気電池などの各種電池に使用することで、性能UPが期待できる材料です。
  • 従来の製法では猛毒のフッ化水素酸(注2)を使用する必要がありましたが、これを環境負荷の小さい塩酸に切り替える手法を開発しました。

概要

カーボン材料は電池の必須構成要素であり、活物質や導電助剤として広く利用されています。東北大学が開発したカーボン新素材「グラフェンメソスポンジ」は、緻密に設計されたナノ構造により、従来のカーボン材料を大幅に上回る優れた多孔性と酸化耐性(化学的な耐久性)の両立を実現しています。また、この材料は柔軟であり、可逆的に圧縮・復元が可能なため、充放電に伴い激しく構造変化をする活物質の動きに追従することができ、機械的な耐久性にも優れています。

グラフェンメソスポンジは電池の性能を向上させる新素材として期待されていますが、従来の製法ではナノ構造を形成するための鋳型材(注3)として使用するアルミナを溶解除去するために猛毒のフッ化水素酸を用いる必要がありました。今回の研究では東北大学、東海カーボン、東京工業大学、ロンドン大学クイーンメアリー校の連携により、鋳型材を塩酸に可溶な酸化マグネシウムに切り替えることに成功し、より安全で安価な製造法を確立しました。

本研究成果は、6月1日(現地時間)に英国王立化学会の学術誌「Journal of Materials Chemistry A」のオンライン速報版に掲載されました。

詳細な説明

背景

カーボン材料は電池の必須構成要素として広く使用されています。従来の材料には、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブなどがありますが、これらの材料において、多孔性(電気を貯める量に関係)と耐久性の両立は困難でした。

東北大学ではカーボン材料におけるこれらの問題を解決できる新素材として、「グラフェンメソスポンジ(GMS)」の開発を2016年に発表しました。GMSの構造模型を図1に示します。GMSは欠陥の無い1枚のグラフェンシート(注4)が泡状の構造となったものであり、1つの泡(細孔)の大きさはおよそ3~8 nmです。

図1 GMSの構造模型

GMSの構造(図1)は電池用カーボン材料として緻密に設計したものであり、そのユニークな構造によって以下に示す特徴を持たせています(図2)。

特徴① 細孔壁がグラフェンシート1層であるため、比表面積が2000 m2/g程度と活性炭並みに大きい。
特徴② 直径3~8 nmの泡状構造により、細孔容積が3~4 cm3/gと非常に大きい(活性炭の2~3倍以上)。活物質を大量に担持可能。
特徴③ 細孔壁のグラフェンシートに欠陥が無いため、酸化耐性(空気酸化、薬品酸化、電気化学酸化含む)が非常に高い(活性炭、多孔性カーボンブラック、カーボンナノチューブを上回る)。
特徴④ 高品質なグラフェンから成るため、カーボンブラック並みに導電率が高い。
特徴⑤ 引張強度が高く柔軟なグラフェンシート1層で構成されるため、伸縮性に優れる。ナノ細孔が可逆的に圧縮・復元する。充放電に伴い激しく構造変化する活物質に追従可能。

図2 GMSの特徴

今回の発見

GMSの従来の製法を図3の上段に示します。アルミナ(Al2O3)のナノ粒子を高温でメタン(CH4)に接触させると、Al2O3の作用によってCH4がグラフェンシートに転換されてAl2O3ナノ粒子表面を被覆します。続いてAl2O3をフッ化水素酸で溶解除去し、Al2O3であった部位が空洞になった泡状のカーボン多孔体を作ります。最後に高温処理をすると、グラフェンシートから欠陥が除去されて高品質なグラフェン壁から成るGMSが得られます。従来の製法において、鋳型材であるAl2O3をフッ化水素酸で除去する工程が製造コストの大部分を占めていました。フッ化水素酸は猛毒であり腐食性が高いため、取り扱いには特殊な設備が必要であり、また使用後の廃液処理に高いコストがかかるためです。

今回の研究では、鋳型材を従来のAl2O3からMgOに切り替える技術を開発しました。MgOは希塩酸で簡単に溶解除去できるので、GMS製造のコストが大幅に低減できます。

図3 従来の製法と、今回の製法の比較

用語解説
注1)グラフェンメソスポンジ(GMS)
東北大学が2016年に発表したカーボン新素材。3~8 nmの泡状の細孔構造をしており、細孔壁は欠陥の無いグラフェンシート1層で構成されているため、多孔性と耐食性を両立している。詳細は下記の論文と特許を参照。
(論文)DOI:10.1002/adfm.201602459新しいタブで開きます
(特許)特許第6460448号
注2)フッ化水素酸
化学式HFで示される強酸。猛毒であるほか、腐食性があるため取り扱いには特殊な設備が必要。ガラスやアルミナを溶解する作用があるため、GMSの製造においては鋳型材として使用しているアルミナナノ粒子を溶解除去するのに用いている。
注3)鋳型材
カーボンのナノ構造を形作るために利用する構造体。鋳型材にカーボンを付着させた後に鋳型材を除去すると、鋳型材をかたどったカーボン構造体が得られる。GMSの鋳型材として、従来の製法ではアルミナナノ粒子を用いていた。
注4)グラフェンシート
炭素原子1個の厚さ(約0.34 nm)のシート状物質。黒鉛(グラファイト)や他のカーボン材料を形成する基本構造。1枚のグラフェンシートは「グラフェン」と呼ばれる。1枚のグラフェンシートの比表面積(面積を重量で割った値)は2627 m2/gと非常に大きいが、従来のカーボン材料ではグラフェンシートが積層して比表面積が低下している。グラフェンシートの端(エッジ)は水素原子や酸素原子で終端されている。このエッジは酸化されやすく、電池の正極ではカーボン材料が酸化劣化する。また、エッジは正極でも負極でも電解液の分解反応を促進する性質がある。このため、カーボン材料のエッジは電池を劣化させる原因の1つになっている。GMSはエッジが殆ど存在しない高品質な単層のグラフェンシートから構成されるため、耐久性が高くなおかつ比表面積が大きい。

論文情報

雑誌名: Journal of Materials Chemistry A
タイトル: Synthesis of graphene mesosponge via catalytic methane decomposition on magnesium oxide
著者: Shogo Sunahiro, Keita Nomura, Shunsuke Goto, Kazuya Kanamaru, Rui Tang, Masanori Yamamoto, Takeharu Yoshii, Junko Nomura Kondo, Zhao Qi, Azeem Ghulam Nabi, Rachel Crespo-Otero, Devis Di Tommaso, Takashi Kyotani and Hirotomo Nishihara
DOI: 10.1039/D1TA02326H新しいタブで開きます

Journal of Materials Chemistry A HOT Papers新しいタブで開きますに選ばれました。

*This article was published in the Royal Society of Chemistry’s peer-reviewed Journal of Materials Chemistry A".(この論文は英国王立化学会の査読誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載されました。)
Journal of Materials Chemistry A誌のウェブサイト新しいタブで開きます

関連情報

問い合わせ先

研究に関すること

東北大学 材料科学高等研究所 / 多元物質科学研究所
教授 西原 洋知(にしはら ひろとも)

Tel: 022-217-5627
E-mail: hirotomo.nishihara.b1@tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学 材料科学高等研究所 広報戦略室

Tel: 022-217-6146
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