新しい酸化セリウムナノロッド材料の開発

2015年12月14日

東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)

新しい酸化セリウムナノロッド材料の開発

-低温条件下でも酸素吸蔵放出能を発現-

概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の浅尾直樹教授のグループと同機構の中山幸仁准教授のグループは、セリウムアルミニウム合金を70℃のアルカリ水溶液に浸漬するという非常に簡便な手法により、極めて細い酸化セリウムナノロッドを高収率で作製することに成功しました。
酸化セリウムは、酸化雰囲気下では酸素を取り込み、還元雰囲気下では酸素を供給する酸素吸蔵放出能(※1)を示します。このため、酸化セリウム系材料は、自動車の排気ガス浄化触媒の助触媒(※2)として広く利用されていますが、低温下ではその機能が大きく低下することが知られています。近年、ガソリン車の飛躍的な燃費の向上やハイブリッド車の普及により、排気ガスを低温下で浄化する必要性が高まっていました。
今回、研究グループが独自に開発を進めてきた作製法(特願2015-101576)を用いることで、200℃以下の低温域で酸素吸蔵放出能を示すナノロッド材料を開発することに成功しました。これにより本研究は低温条件下における排気ガス浄化触媒の機能性向上に利用できる可能性があります。また、この作製手法は他の金属酸化物のナノ材料化への応用も期待されることから、ナノテクノロジー研究の発展に大きく道を開くものです。

本研究成果は、ドイツの出版社が発行する先端材料科学の専門誌『Advanced Materials』に平成27年12月11日(現地時間)に掲載されました。

研究の背景

酸化セリウム(CeO2)はCe3+とCe4+との酸化還元電位(※3)が1.61 Vと比較的小さく、その酸化還元反応が容易に可逆的に起こるため、酸化雰囲気下では酸素を取り込み、還元雰囲気下では酸素を供給する酸素吸蔵放出能(Oxygen Storage Capacity; OSC)を示します。この機能性はガソリン自動車排気ガスの浄化の際に、空燃比(※4)の調整に利用できることから、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)の有害物質を浄化する三元触媒(※5)に必要不可欠な存在で、CZ固溶体(※6)などの酸化セリウム系材料がOSC材料として用いられています(図1)。しかしCeO2のOSC機能は、高温域では容易に発現するものの、通常300℃以下の低温域ではその機能が大きく低下する問題がありました。特に、近年ガソリン車の飛躍的な燃費の向上やハイブリッド車の普及により、排気ガスを低温下で浄化する必要性が高まっており、CeO2の低温におけるOSC機能発現も重要性を増しています。

研究の内容と今後の展開

今回東北大学の研究グループは、セリウムアルミニウム合金を出発原料として、これを70℃の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬するという極めて簡単で独自に開発した手法を用いることにより、CeO2ナノロッドを高収率で作製することに成功しました。高分解能透過電子顕微鏡(※7)を用いた解析により、本材料は直径が5~7nmと極めて細いナノロッド形状であることを見出し(図2)、それに伴い比表面積が200 m2/g以上と極めて高いことを吸着等温測定から明らかにしました。そして本材料の特徴として、200℃以下の低温においてもOSC機能が発現することを明らかにしました(図3)。この低温域におけるOSC機能発現の理由は、一般的に用いられる水熱法などの高温環境を必要とする作製条件と異なり、我々の作製法は加熱条件が穏やかであるために、より活性な結晶面がナノロッド表面に露出したこと、そしてその表面積が極めて高いことが原因であると考えられます。今後は低温域におけるOSC発現機構の詳細な解明と、CeO2ナノロッドにジルコニウムなど機能元素を添加して材料組成をコントロールすることで耐熱性についても検討し、排気ガス浄化触媒における助触媒としての性能向上を目指していく予定です。

付記事項

本研究成果は、東北大学原子分子材料科学高等研究機構の石川敬章(学生)、武田真行(学生、現 NTTデータCCS)着本享研究員(現 JFEテクノリサーチ株式会社・国立研究開発法人産業技術総合研究所)、中山幸仁准教授、浅尾直樹教授との融合研究によるものです。また本研究の一部は、日本学術振興会(特別研究員(25-10331、石川敬章))、日本学術振興会科学研究費補助金(挑戦的萌芽(25630291、代表:着本享))、(基盤研究B(25286019、代表:中山幸仁))、(基盤研究B(25286012、代表:浅尾直樹))より研究助成を受け、東北大学ナノテク融合技術支援センターを利用して実施されました。

参考図

pr_151214_01.jpg図1 自動車排気ガス浄化触媒(三元触媒)の概略図。酸化セリウム系OSC材料が助触媒として用いられている


pr_151214_02.jpg図2 CeO2ナノロッドの高分解能透過電子顕微鏡像。


pr_151214_03.jpg図3 低温域におけるOSC機能の発現。

用語解説

※1 酸素吸蔵放出能
酸化雰囲気下で酸素を取り込み、還元雰囲気下で酸素を放出する能力。この性質を用いることで、三元触媒による排気ガス浄化において空燃比が理論値である14.7からずれた条件においても有毒成分の浄化が可能になる。
※2 助触媒
触媒の働きを助け、その活性を向上させる役割を果たす材料のこと。通常三元触媒では、貴金属微粒子触媒の働きを助ける目的で、酸素吸蔵放出能をもつ酸化セリウム-酸化ジルコニウム固溶体材料が助触媒として用いられている。
※3 酸化還元電位
物質が酸化反応もしくは還元反応を起こした際に発生する電位のこと。物質が酸化されやすいか還元されやすいかの指標となる。
※4 空燃比
エンジンに取り込まれる空気と燃料の重量の比を示したもの。ガソリンエンジン用の三元触媒によって有毒成分の浄化を行うための理論空燃比は14.7となる。
※5 三元触媒
ガソリンエンジンの排気ガス浄化に用いられている触媒で、炭化水素(CH)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を同時に除去することから三元触媒と呼ばれる。一般的には酸素吸蔵放出能を持つ酸化セリウム-酸化ジルコニウム固溶体に白金、パラジウム、ロジウムを担持したものが用いられている。
※6 CZ固溶体
酸化セリウム(Ceria)と酸化ジルコニウム(Zirconia)を固溶させた材料。酸化ジルコニウムの添加によって、OSC活性や耐久性が向上する。
※7 高分解能透過電子顕微鏡
電子顕微鏡の一種で、観察対象である薄片化試料や、ロッド状の試料に対して電子線を照射し、透過してきた電子や散乱された電子を結像することにより拡大して観察する電子顕微鏡のこと。数百倍から数百万倍の倍率で拡大像が得られ、原子レベルの観測が可能である。

論文情報

“Cerium Oxide Nanorods with Unprecedented Low-Temperature Oxygen Storage Capacity”
Advanced Materials
Yoshifumi Ishikawa, Maiki Takeda, Susumu Tsukimoto, Koji S. Nakayama, and Naoki Asao
(DOI: 10.1002/adma.201504101 (新しいタブで開きます))

問い合わせ先

研究に関すること

浅尾 直樹 (アサオ ナオキ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 教授

TEL : 022-217-6165
E-mail : asao@m.tohoku.ac.jp

中山 幸仁 (ナカヤマ コウジ)
東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 准教授

TEL : 022-217-5950
E-mail : kojisn@wpi-aimr.tohoku.ac.jp

報道に関すること

皆川 麻利江 (ミナガワ マリエ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 広報・アウトリーチオフィス

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