強くて導電性の高い生体適合性材料の作製に成功

2013年06月26日

強度と導電性を兼ね備えた生体適合性材料の作製に成功

-効率的に収縮弛緩する筋繊維の培養が可能となり、再生医療の進展に道-

概要

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のラモン・アスコン助教、アハディアン助手、カデムホッセイニ主任研究者、末永主任研究者らのグループは、東北大学工学研究科、環境科学研究科、物質・材料研究機構、ハーバード大学などと共同で、生体組織工学に必要不可欠な生体適合性材料の強度と導電性の大幅な改良に成功しました。親水性ゲルとカーボンナノチューブのハイブリッド材料を使用し、カーボンナノチューブを一方向に並べることで実現しました(図1左)。さらに、改良した材料を使って培養した筋肉組織(図1右)が、従来より効率的に収縮弛緩することを示しました。この技術を用いて、再生医療に必要な臓器や組織作製が期待されます。

上記の研究成果は、2013年6月25日(ヨーロッパ現地時間)にAdvanced Materialsオンライン版に掲載されました。

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図1 ゲル中でカーボンナノチューブが縦に配列された生体適合性材料(左)と
改良した生体適合性材料を使い作製した筋繊維(右)


研究の背景

iPS細胞などの再生医療への利用が現実化する中で、病変した臓器や組織を代替・修復するための組織工学(*1)に対する期待が高まっています。臓器の代わりとなる生体組織を作製するためには、細胞が集まって立体的に成長する必要があり、細胞同士の接着剤や成長の足場として働く材料が必要不可欠です。これまで生体適合性が高い親水性ゲル(*2)が足場材料として利用されてきましたが、機械的強度に乏しく導電性が低いため、筋肉、心臓、神経組織など、十分な強度と高い電気刺激への反応性が求められる生体組織の作製に使用することが困難でした。このため、親水性ゲルに強度と導電性を付与する技術開発が、組織工学の分野で求められていました。

研究の内容

本研究グループは、親水性ゲルとカーボンナノチューブのハイブリッド材料を使用し、誘電泳動(*3)という現象を利用することで上記の問題を解決しました(図2)。ハイブリッド材料を不均一な電場の中におくことで、ゲル中のカーボンナノチューブの向きを一方向にそろえることが可能となります(図3)。そのため、十分な機械的強度が得られ、導電性が大幅に向上しました(図4)。さらにこの材料を用いて、筋芽細胞を、電気パルスを加えながら培養したところ、ひも状の筋繊維に変化することが確認されました(図1、図5)。これは、ハイブリッド材料の高い導電性によって、電気刺激が効率的に筋芽細胞に作用したためと考えられます。この筋繊維は、従来の細胞工学の技術で作製されたものより効率的に収縮弛緩することが示されました。

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図2 親水性ゲルとカーボンナノチューブによるハイブリッド材料作製の仕組み


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図3 親水性ゲル中でのカーボンナノチューブの配向を示す顕微鏡写真。誘電泳動(DEP)を
誘起することにより、ランダムに並んでいたカーボンナノチューブ(左)が縦方向に配列している(右)。


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図4 ハイブリッド材料(hybrid GelMA-aligned CNTs hydrogel)の電気的特性。
他の材料に比べ抵抗が小さい(導電性が高い)。


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図5 ハイブリッド材料を足場にした筋繊維作製の仕組み


今後の展開

今後は、さらに組織化され生体内と類似の機能を有する筋肉組織を今回開発したハイブリッド材料上に作製し、新しいタイプの薬剤スクリーニング、バイオセンシングシステムへと展開します。また、ハイブリッド材料上の筋肉組織を駆動源としたバイオポンプなどへの展開も予定しています。

用語説明

(注1)組織工学
細胞や生体材料を3次元的に組み合わせ、人工的に生体組織や臓器を作製する学問や技術
(注2)親水性ゲル
水に対する親和性の高い高分子の3次元網目構造体の総称。ゼリー、こんにゃく等の食品の他、ソフトコンタクトレンズなど多くの合成物質がある。
(注3)誘電泳動
交流電場中置かれた微小物体が移動したり回転したりする現象。交流電場の向きや周波数を制御することにより、物体の動きや配向をコントロールできる。

論文情報

Javier Ramón-Azcón, Samad Ahadian, Mehdi Estili, Xiaobin Liang, Serge Ostrovidov, Hirokazu Kaji, Hitoshi Shiku, Murugan Ramalingam, Ken Nakajima,Yoshio Sakka, Ali Khademhosseini, and Tomokazu Matsue, "Dielectrophoretically aligned carbon nanotubes to control electrical and mechanical properties of hydrogels to fabricate contractile muscle myofibers" Advanced Materials (2013)

問い合わせ先

研究に関すること

末永智一(マツエ トモカズ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 主任研究者・教授

TEL : 022-795-7209
E-MAIL : matsue@bioinfo.che.tohoku.ac.jp

報道に関すること

中道康文(ナカミチ ヤスフミ)
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 広報・アウトリーチオフィス

TEL : 022-217-6146
E-MAIL : outreach@wpi-aimr.tohoku.ac.jp