寒川誠二教授の研究グループ 高密度・均一量子ナノ円盤アレイ構造による高効率・量子ドット太陽電池の実現

2012年06月08日

シリコン量子ドット太陽電池において世界最高変換効率12.6%を達成

概要

東北大学・流体科学研究所および原子分子材料科学高等研究機構の寒川教授グループは、この度、新しい鉄微粒子含有蛋白質(リステリアフェリティン)を用いた自己組織化による金属微粒子テンプレート技術と超低損傷微細加工技術として独自に開発した高効率低エネルギー中性粒子ビーム加工技術とを融合することでシリコン(Si)基板上に面密度が1012cm-2以上で均一で等間隔でしかも損傷のない6.4nm量子ナノ円盤アレイ構造の作製に成功し、シリコンカーバイド(SiC)薄膜とのサンドイッチ構造を用いた太陽電池作製プロセス技術を確立いたしました。この時、シリコン量子円盤構造間に形成される新たなバンド(ミニバンド)により、従来の薄膜に比べて光吸収効率が大きく向上し、且つ、発生したキャリア(電子、ホール)の輸送特性も大幅に向上することを初めて実証しました。この単層シリコン量子ナノ円盤アレイ構造とSiC薄膜とのサンドイッチ構造を用いて太陽電池を試作した結果、エネルギー変換効率12.6%というシリコン量子ドット太陽電池として世界最高値を達成いたしました。
この結果は、シリコン量子ナノ円盤アレイ構造とSiC薄膜とのサンドイッチ構造を5層程度積層した吸収層をタンデム化することで理論的なエネルギー変換効率が40%以上の超高効率シリコン量子ドット太陽電池が実現できる可能性を示したもので、シリコンだけを用いた超高効率量子ドット太陽電池の実現に向けた画期的な成果であります。

お問い合わせ先

東北大学・流体科学研究所

担当 : 寒川 誠二
久保田 智広
電話番号 : 022-217-5240

研究内容

今回開発した技術は、シリコン酸化膜上に形成した数nm厚の結晶化Si上に鉄微粒子内包蛋白質を配置した後蛋白質のみを除去して均一高密度等間隔4.5nm径鉄微粒子を配置するテンプレート形成技術とその鉄微粒子をマスクとして独自に開発した低エネルギー塩素原子ビームにより結晶化Siを無欠陥で加工する技術であります(図1)。その結果、2020年以降に実用化されることが期待されている高効率量子ドット太陽電池を目指した6.4nm径Si量子円盤アレイ構造を無損傷で作製できることを世界で初めて実証しました(図2)。更に、作製したSi量子円盤アレイ構造とシリコンカーバイド(SiC)のサンドイッチ構造を用いることで、理論的に予測されていた新たなバンド(ミニバンド)の形成を実現し、量子ナノ円盤アレイ構造での光吸収係数およびキャリア輸送特性の大幅な向上を確認しました。また、このSi量子円盤アレイ構造とSiCのサンドイッチ構造を用いて単層シリコン量子ドット太陽電池を試作しました結果、単層でありながら、2008年にUniversity of New South WalesのGreen教授グループが15層シリコン量子ドット太陽電池で実現したエネルギー変換効率10.6%を上回り、エネルギー変換効率12.6%を実現しました(図3)。この時、単層のシリコン量子ナノ円盤アレイ構造において太陽電池全体におけるキャリア発生量の3.4%にあたるキャリアが発生していることを定量的に明らかにしています。これは、本研究で開発した単層シリコン量子ナノ円盤アレイ構造が高効率発電に寄与できていることを太陽電池デバイス上において実証したもので、実用化に向けて大きな成果であります。また、この結果は作製したSi量子円盤アレイ構造とSiCのサンドイッチ構造を4~5層積層した光吸収層をタンデム化することで、理論的なエネルギー変換効率が40%以上のシリコン量子ドット太陽電池の実現の可能性を示しています。


図1 シリコン量子ナノ円盤構造アレイ作製作製プロセス


図2 6.4nm径シリコン量子ナノ円盤構造アレイ


図3 単層シリコン量子ナノ円盤アレイ太陽電池特性

中性粒子ビームで作製したSi円盤構造はほぼ無欠陥であり、直径および厚さを制御することでバンドギャップを高精度に制御できる量子サイズ効果を示します。また、シリコンナノ円盤構造の中心間距離が 8.7nm±10%と極めて均一で高い周期性を持ち、量子円盤構造の面密度が1012cm-2と高密度で2nmの等間隔に配置されているため、理想的な2次元超格子構造が実現できていると考えられます。その時、SiCとのサンドイッチ構造を作製することにより、理論的に予測されていたナノ構造間の波動関数の重なりで形成される新たなバンド(ミニバンド)の幅がより広くなり、光吸収特性が大幅に向上するとともに、単層シリコン量子ナノ円盤アレイ構造で発生した電子とホールの輸送特性を向上させることができることを明らかにしました。つまり、この構造はシリコン量子ドット太陽電池として有望で実用的な構造であることを示しました。

2020年以降に実用化されることが期待されている量子ドット太陽電池において必要不可欠である超格子構造の作製は従来技術用いられているS-K法などの格子歪を利用して結晶成長時に量子ドットを自己組織的に形成する手法ではドットのサイズや間隔を制御することは困難を極めておりました。しかし、本研究で実現したテンプレート作製技術と中性粒子ビーム加工技術を組み合わせたこのナノ構造作製技術を用いると均一で周期的で高密度な量子ナノ円盤構造が容易に実現でき、Si、Ge、GaAsなどあらゆる半導体材料を用いて量子超格子構造を実現できるという画期的なナノ構造作製技術であります。6.4nmの均一で高密度な量子ナノ円盤構造を中性粒子ビームで形成するために、まず蛋白質・リステリアフェリティンに内包する直径4.5nm鉄微粒子を蛋白質の自己組織化能を用いて配列し、それをマスクに微細加工を実現しました。リステリアフェリティンという鉄微粒子内包 蛋白質を細密にシリコン上に配置するためのキーポイントは、基板表面に中性粒子ビーム酸化により極薄酸化膜を低温で形成することであります。中性粒子ビーム酸化はシリコン、ゲルマニウム、GaAsなどの表面に低温で極薄酸化膜を安定して形成することが出来ます。この酸化膜は負のゼータ電位と高い親水性を示し、フェリティンとの疎水性相互作用およびクーロン相互作用のバランスでフェリティンが基板上に細密配置され、内包されていた鉄微粒は基板上に周期的に高密度に配置されることとなります。それをマスクに無欠陥シリコン量子ナノ円盤構造(ナノ円盤構造1個あたりに欠陥は0.08個以下)を約1012cm-2の面密度で周期的に2nmに間隔制御してアレイ状に配置することができました。このシリコン量子ナノ円盤構造は直径と厚さの2つのパラメータで1.3~2.3eVの間でバンドギャップを高精度に制御できます。また、間隔や周期性、中間層材料を制御することで円盤構造間の波動関数の形状や重なりを制御でき、理論的に予測されていたナノ構造間の新たなバンド(ミニバンド)が寄与していることを明らかにしました。特に、シリコン量子円盤アレイ構造とSiC膜のサンドイッチ構造は、このミニバンドの形成に最適な構造であり、高効率光吸収と高効率キャリア輸送が実現できることを実証しました。

このシリコン量子ナノ円盤アレイ構造が高効率太陽電池として期待される量子ドット太陽電池を実現することを可能とし、今後5年程度での実用化を目指して精力的に研究を進めていく予定です。

本研究は独立行政法人・科学技術振興機構(JST)・戦略的創造事業(CREST)「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」により実施された成果であります。

なお、今回の技術成果につきましては、6月3日から8日まで米国オースティンで開催される第38回 IEEE Photovoltaic Specialist Conferenceで報告いたします。

以上

この件に関する報道関係からのお問い合せ先

東北大学・流体科学研究所、原子分子材料科学高等研究機構

教授 寒川誠二

TEL / FAX : 022-217-5240(直)
E-mail : samukawa@ifs.tohoku.ac.jp