所長鼎談
世界トップレベルの材料科学研究拠点の形成へ

2017年12月25日

2017年6月、東北大学は、東京大学、京都大学とともに指定国立大学法人に指定された。東北大学の3つの材料科学研究所、AIMR、金属材料研究所、多元物質科学研究所の所長が、東北大学の材料科学分野の研究力をさらに強化し、世界トップレベルの材料科学研究拠点を形成するための戦略について語った。

指定国立大学に指定された東北大学の今後の戦略について語り合う、AIMRの小谷元子所長(左)、金属材料研究所の高梨弘毅所長(中央)、多元物質科学研究所の村松淳司所長。
指定国立大学に指定された東北大学の今後の戦略について語り合う、AIMRの小谷元子所長(左)、金属材料研究所の高梨弘毅所長(中央)、多元物質科学研究所の村松淳司所長(右)。

2017年6月30日、文部科学省は、東北大学、東京大学、京都大学を指定国立大学法人に指定した。選ばれた3大学には、新制度の下、世界最高水準の教育研究活動の展開を通じて国際競争力に磨きをかけることが期待されている。

東北大学は、本指定に至るまで大学が一体となって、改めて大学の強みと弱みを把握し、将来にわたりどのような大学像を目指すのかについて議論を重ねてきた。今後、そのように築き上げた全学的な共通理念の下で、長期的な視野をもって研究力強化に組織的に取り組んでいく。特に、東北大学が強みを有する「材料科学」、「スピントロニクス」、「未来型医療」、「災害科学」の4領域について、全学の卓越したリソースを結集し、名実ともに世界トップレベルの研究拠点を形成していく。

材料科学分野における東北大学の強みは、専門性の高さと研究者の層の厚さに支えられている。東北大学は、これらの長所を生かして、世界トップレベルの材料科学研究拠点を形成していく。この新拠点では、材料科学高等研究所(AIMR)が、金属材料研究所、多元物質科学研究所、工学研究科、理学研究科と連携して、中心的役割を果たすことになる。

日本の大学を先導する

研究者としての喜びは、その研究成果が世界から認められることにある。金属材料研究所の高梨弘毅所長は、「1つでも2つでも多くの世界トップと言えるような研究成果を出していく、それが重要だと思います」と言う。東北大学には実学尊重という理念がある。単に学術を学術研究で終わらせるのではなく、最終的には社会を変えるような大きな成果を目指すというところに大きな特徴がある。東北大学は、持てる強みをさらに伸ばすとともに、世界トップレベルの研究を破壊的イノベーションにつなげる一連の流れを加速するため、これまで以上に積極的に取り組んでいく。高梨所長は「それは伝統でもあるし、これから東北大学が先導的な役割を果たしていくことができる点です」と続ける。

多元物質科学研究所の村松淳司所長は、世界中から研究者を受け入れ、また東北大学の学生や研究者が海外で活躍できるようにしたいと考えている。
多元物質科学研究所の村松淳司所長は、世界中から研究者を受け入れ、また東北大学の学生や研究者が海外で活躍できるようにしたいと考えている。

世界中から優秀な研究者が集まる拠点となるには、国際化を推し進めることも必須の課題になる。日本の大学は、海外の大学と比べて日本人以外の学生や研究者が少ない傾向があり、海外に長期滞在する日本の学生や若手研究者の数も減少している。

多元物質科学研究所の村松淳司所長は、「世界に開かれた大学として海外から学生や研究者を受け入れる必要があります」と言う。「同時に、東北大学の学生や研究者もどんどん海外で活躍して欲しいです」。

日本の大学が世界の頭脳循環の輪に加わるには、「多文化とか、違う世界があるとかいうことを理解することにあります」とAIMRの小谷元子所長は言う。世界をリードする材料科学拠点であればこそ、常に境界を開拓するためには、異なるものからの刺激を受けるための仕組みが必要なのである。

世界トップレベルの材料科学拠点を形成するために

東北大学は材料科学に強い、と言われているが、各部局によってそれぞれ強みや特色は異なる。AIMResearchは、3所長にそれぞれの研究所の特徴と強みを聞いた。

高梨所長は、金属材料研究所には基礎研究の結果を応用につなげてきた長い歴史があると言う。
高梨弘毅所長は、金属材料研究所には基礎研究の結果を応用につなげてきた長い歴史があると言う。

高梨所長: 金属材料研究所には基礎研究を大切にしつつも、その成果を実学尊重の理念に基づいて産業化に結び付けていく、100年におよぶ伝統があります。80年以上も前の発明品でありながら、現在でも磁気ヘッド等に広く使用されているセンダストなどは基礎研究が産業を支えた好例です。当研究所で研究をした佐川眞人氏が後に企業で発明した世界最強の永久磁石、ネオジム磁石も現代社会に不可欠な基盤材料となっています。これら二つはともに磁性材料ですが、金属材料研究所の創設者であり、当時世界最高強度の磁石を発明した本多光太郎先生の研究を源流としていると言えるでしょう。もちろん、金属材料研究所では磁性材料以外にも多くの有用な材料を世に出してきましたし、現在もベンチャー企業を立ち上げ、基礎研究を実用化につなげる努力を継続しています。

村松所長: 多元物質科学研究所の特色は、伝統的に資源や素材をターゲットにした研究に取り組んでいることです。金属だけではなく、酸化物や硫化物やセラミックスなど、あるいは有機材料やバイオ系の材料も扱っていて、かなり広範な物質・材料科学分野を担当しています。ただし、それら広範にわたる研究領域をばらばらに研究しているわけではなく、次の三つのメインテーマに沿って研究を推進しています。一つ目は資源から素材というテーマです。希少資源のリサイクルに関する研究も含みますが、新しい機能をもった無機材料の創製が主テーマとなっています。二つ目は科学計測で、現在「SLiT-J(東北放射光施設計画)」というプロジェクトを進めています。三つ目は、他の研究所は取り組んでいない、無機材料や有機材料を複合化し、複数の機能を同時発現させるようなハイブリッド材料です。多元物質科学研究所は、他の部局にないところを補いつつ、その強みを生かして東北大学の材料科学を固めるという立場にあるのだと思います。

小谷所長: AIMRは世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)によって設立された研究所ですので、世界中から優秀な研究者が集結して、最高水準のサイエンスを展開するというWPI拠点としてのミッションがあります。さらに、新しい研究領域を切り拓くために異分野融合で研究を推進することが求められていますが、AIMRでは数学-材料科学の連携という、研究所レベルでは世界初の大胆な試みを展開しています。AIMRがWPIプログラムで実施してきた試みは、指定国立大学法人の提案の中でも活かされています。東北大学は、その研究戦略として、三層構造のイノベーションシステムを構築しました。研究科を中心とする基盤部局群、附置研究所や国際共同大学院などからなる分野融合研究アライアンス、世界最高の研究成果を創出する高等研究機構の三層です。AIMRはその三層構造の高等研究機構に位置付けられ、世界トップレベルの研究を創出していくことが最大の使命です。また、異分野融合、数学・情報科学を活用した新しいサイエンスの展開に関しても先導的役割を担っています。

これら3研究所は、それぞれが役割を果たすべく邁進するが、高梨所長は「AIMRの先進性と、金属材料研究所や多元物質科学研究所をはじめとする東北大学の部局が伝統的に取り組んできた実学の部分とをうまく連結できれば、大学全体として持続的に強みを出していけると思います」と、材料科学研究拠点の成功の鍵は、三層構造間の連携システムにあることを強調する。

村松所長も「新たな材料研究拠点内における人事交流の仕組みを整える必要があるでしょう。現在活性化している『若手研究者アンサンブルプロジェクト』のような部局の壁を越えた交流を、もっともっと推進していくべきです」と続ける。

国際「協奏」の時代へ

AIMRの小谷所長は、研究者間の国際連携を音楽の協奏に例える。
AIMRの小谷元子所長は、研究者間の国際連携を音楽の協奏に例える。

指定国立大学法人の趣旨にもあるように、日本の大学の国際競争力を上げることは不可欠である。一方、小谷所長は、「いま時代は『競争』ではなく、共に奏じる『協奏』の時代になっています」と語る。

AIMRでは、WPIプログラムにおいて国際共同研究の枠組みを構築してきた。海外校に設置したAIMRジョイントラボに、ジョイントアポイントメントのポスドクを置いて、海外との共同研究を推進し、「協奏」の環境を作ってきた。

高梨所長は、「国際共同研究を活発に行う中で、お互いの良いところを見い出し、海外の研究者が『日本には良いものがあるから行きたい』と思えるような機会を増やしていくことが重要になります」と語る。

さらに、東北大学は教育における海外との連携のために、材料科学分野の国際共同大学院を立ち上げる。次世代社会をリードする学生たちが国際的なネットワークを築く機会となるだろう。

村松所長は、「中国、韓国、東南アジアなどとの友好も重要です」と言う。日本の勢いは研究への投資などで若干衰えつつあるものの、基礎科学に関しては依然、強みをもっている。一方、中国や韓国は凄い勢いで研究投資と人材育成を進めている。それらと日本の基礎科学をうまく組み合わせたり、結びつけたりすれば効果的な連携が期待できる。「指定国立大学法人への指定を機に、このような連携をますます強固にしていけたらと思います」と語る。

東北大学は100年を超える材料科学研究の歴史をもち、その積み重ねの上に、学内・学外での頭脳循環イノベーションシステムにより、新たな材料科学を構築しようとしている。指定国立大学法人への指定は、東北大学が自らを分析・理解する機会となり、世界中から優秀な研究者が集う世界トップレベルの材料科学研究拠点を形成するための格好のトリガーであったといえるだろう。