国際ワークショップ
強化されたケンブリッジ大学とのパートナーシップ

2015年02月23日

AIMRとケンブリッジ大学が合同で開催した第3回ワークショップは、両研究機関のパートナーシップをより強固なものにした

AIMRの浅尾直樹教授は、第3回 AIMR-ケンブリッジ大学合同ワークショップにおいて、ナノ多孔質金に関する自身の研究について講演を行った。
AIMRの浅尾直樹教授は、第3回 AIMR-ケンブリッジ大学合同ワークショップにおいて、ナノ多孔質金に関する自身の研究について講演を行った。

2014年12月10日、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)とケンブリッジ大学は3回目となる合同ワークショップを開催した。ナノ多孔質金の触媒特性や、ペロブスカイト型酸化物の原子レベルの構造、数学と材料科学との連携など多彩なテーマについての講演が行われたほか、学生や若手研究者によるポスター発表や研究者交流プログラムの紹介も行われ、これまで築いてきた両研究機関の連携はいっそう強化された。

ワークショップに先立ち、12月9日の午前中には、東北大学の里見進総長とケンブリッジ大学のJeremy Sanders副学長が、両大学の教育および研究における協力関係を深めることに関する共同声明に調印した。調印式には、AIMRの小谷元子機構長、在英国日本国大使館経済公使、グローバル安全学や材料科学分野の教授を含め、40名以上が出席した。

ケンブリッジ大学には、2012年にAIMRジョイントセンターが設けられており、AIMRの研究者が現地に赴いて集中的に共同研究を行うことができる体制が整えられている。ここに所属するKatherine Orchard助手は、「AIMRジョイントセンターが設立されて以来、ケンブリッジ大学におけるAIMRの存在感は大いに高まりました」と話す。ケンブリッジ大学化学科のErwin Reisner研究室で研究をすすめるOrchard助手は、太陽エネルギーを吸収できるナノ構造材料の開発と、これを利用して水を酸素と水素に分解する技術に関心を持っており、将来はその技術を水素自動車や電気デバイスに応用したいと考えている。「ケンブリッジ大学もAIMRも、世界レベルの学術研究機関として広く知られています。今後、両研究機関の交流がますます活発になることで、さらに優れた研究が生まれるでしょう」。

合同ワークショップに参加した学生と研究者は、ケンブリッジ大学化学科のClare Grey教授による電池とスーパーキャパシタに関する講演など、多彩な講演に聴き入っていた。 
合同ワークショップに参加した学生と研究者は、ケンブリッジ大学化学科のClare Grey教授による電池とスーパーキャパシタに関する講演など、多彩な講演に聴き入っていた。 

Orchard助手をはじめ50名以上の学生や研究者が参加したワークショップは、AIMRの小谷元子機構長とケンブリッジ大学材料科学・冶金学科のAlan Lindsay Greer教授の挨拶で幕を開けた。その後、AIMRとケンブリッジ大学から各3名の研究者が基調講演を行い、続いて、数学、化学、機能性材料とスピントロニクス、バルク金属ガラス、トポロジカル絶縁体、冶金学の6つのグループに分かれて最新の研究動向について議論が展開された。パラレルセッションでは、AIMRとケンブリッジ大学の学生や研究者の交流に関する話し合いが行われた。AIMR事務部門長の塚田捷特任教授は、優秀な若手外国人研究者を仙台のAIMRで1~3カ月間受け入れるGI3 Lab(Global Intellectual Incubation and Integration Laboratory)というユニークな交流プログラムを紹介した。

触媒作用

AIMRから最初に基調講演を行った浅尾直樹教授は、Reisner研究室との共同研究で水を分解するシステムを開発したことがある。今回の講演では、ナノ多孔質金を利用してまったく新しい選択的分子変換反応を起こし、既存の手法よりも環境にやさしい手法で各種の有益な有機分子を生成させる研究について発表が行われた。

金は長らく触媒的に不活性な物質と考えられてきたが、四半世紀近く前に、ナノサイズの粒子にすると高い触媒活性を示すことが明らかになった。しかし、ナノサイズの金粒子は凝集して触媒能力を失いやすい。浅尾教授らは、直径10~50nmの孔が無数にあいているナノ多孔質金が、耐久性のある構造と高い触媒活性を持ち、回収して再利用することができる、合成化学の理想とも言える触媒であることを発見している。

AIMR材料物理グループの一杉太郎准教授は、高温超伝導性や磁気抵抗効果などの魅力的な特性を示すペロブスカイト型酸化物について講演を行い、走査型トンネル顕微鏡を利用してペロブスカイト型酸化物の薄膜を詳細に観察することや、こうした薄膜を1原子層ずつ成長させる可能性について紹介した。

AIMR数学ユニットの西浦廉政教授は、数学と材料科学の深い結びつきについて基調講演を行った。
AIMR数学ユニットの西浦廉政教授は、数学と材料科学の深い結びつきについて基調講演を行った。

AIMR数学ユニットの西浦廉政教授の講演では、数学と材料科学の代表的な分野が、歴史的に密接に関連していることが語られた。さらに、周期的な原子構造を持たず、信頼性の高いモデルが存在しないガラスのようなアモルファス材料を数学的に記述する試みについても説明が行われた。

両分野の結びつきをさらに深めるため、西浦教授の数学ユニットは、Greer教授とAIMRの阿尻雅文教授の2つの実験系研究室とともに研究グループを立ち上げて、ケンブリッジ大学数学科も巻き込んだ連携を生み出そうとしている。西浦教授は、「科学研究のさらなるボーダーレス化が進む今、情報交換や人材交流を支援するAIMRジョイントセンターの役割は、数学などの理論科学にとって重要なものになっています」と話す。

「ケンブリッジ大学でのワークショップが成功裏に終わったことは、AIMRジョイントセンターが材料科学研究の推進に大きな役割を果たしている証拠です」と、小谷機構長は言う。「これらの取り組みが東北大学とケンブリッジ大学の連携を強化したことを喜ばしく思うと同時に、今後、材料科学研究をさらに加速し、AIMRの国際的な認知度が高まっていくことを確信しています」。