機構長インタビュー
数学との連携研究を世界に広める

2014年06月30日

小谷元子機構長のリーダーシップの下でAIMRが推進する数学ー材料科学連携研究のアプローチが、世界中の研究者の注目を集めている

2012年、数学者の小谷元子教授を新たな機構長として迎えた東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)は、数学を重視した材料科学研究に研究所全体で取り組むという前例のない試みを導入し、世界での知名度を高めつつある。海外の一流研究機関との強力な連携をはじめとしたさまざまな取り組みを通じて、インターナショナルな研究文化を醸成することに成功した小谷機構長に話を聞いた。

小谷元子機構長
小谷元子機構長

AIMResearchAIMRは、AIMRジョイントセンター、海外連携機関、部局間交流協定を通じて、国際的なネットワークづくりを推し進めています。こうした多様な協力関係は、どのような成果をもたらしましたか?

AIMRジョイントセンターは、私が機構長に就任してから導入したプログラムで、若手研究者が海外の連携機関に赴いて、現地の研究者と共同研究を行える機会を提供することを主な目的としています。AIMRが協定を締結していた15の海外連携機関のうち、ケンブリッジ大学(英国)、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(米国)、中国科学院化学研究所(中国)の3つの研究機関にAIMRジョイントセンターを置き、より密接な協力関係を築いています。こうした関係は、研究成果の発表やワークショップの共同開催を通じて、AIMRという研究機関だけでなく、AIMRに所属する研究者一人一人の世界での認知度を高めるのに役立っています。

AIMResearch今後、こうした連携をどのように発展させていきたいとお考えですか?

2014年には、オーストラリア国立大学と共同でワークショップを開催するほか、ケンブリッジ大学でAIMRと東北大学の研究を紹介する東北フォーラムを開催します。

AIMRはあまり大きい研究機関ではないので、今は国際的なネットワークを広げることよりも現在の関係を強化することを重視しています。協力関係を強化する方法の1つは、提携機関と共通の研究課題を設定し、研究者同士が情報を共有して密接に協力し合えるための双方向的な橋をかけることです。

最近では、米国のシカゴ大学とAIMRジョイントセンターの設置に向けた覚書を締結しました。中国科学院とは、北京に新たなジョイントセンターを設立するため、連携機関である清華大学を含めた協議を行っております。ドイツのフラウンホーファー研究機構とは、同機構を構成する67の研究所のうち3つと協定を結んでおり、今後は協力関係を結ぶ研究所の数を増やし、同機構との関係を強化したいと考えています。また、二国間で分割できる共同助成金などを通じて、AIMRと各連携機関との共同研究の数が増えていくことも期待しています。

AIMResearchAIMRには、研究者が自由に議論することができる創造的な雰囲気があり、毎年、世界中から優秀な研究者が集まってきます。多様な研究者を受け入れるオープンな環境は、どのようにして作り出されたのですか?

研究に適した環境づくりは、科学にとってきわめて重要です。日本の研究レベルの高さはよく知られているので、海外の多くの研究者が日本に来ることに興味をもっていますが、言葉の壁に尻込みしてしまう場合が多いのです。けれども、AIMRの使用言語は英語です。AIMRの事務スタッフは、外国人研究者が日本に移住する際責任をもってサポートするほか、研究助成金の申請に関する重要な情報の提供や支援も行っています。外部の連携大学と併任できるシステムも始めて、研究者が柔軟かつ機動的に研究を行えるようにしています。

AIMRは研究者のモチベーションを高める制度も取り入れています。業績に応じて研究スペースが増え、給与が上がる成果主義はその一例です。これは、野心的な研究者には非常に魅力的なシステムですし、AIMRとしても、そうした研究者を求めています。

小谷機構長は、数学の視点から材料科学研究を推進することで、AIMRに新しい方向性を与えた。
小谷機構長は、数学の視点から材料科学研究を推進することで、AIMRに新しい方向性を与えた。

AIMResearch今年の1月にWPIプログラム委員会が発表した報告書では、AIMRは2012年に材料科学への数学の導入という新しいアプローチを提案してから「顕著な進展」を遂げたと評価されました。短期間にこれだけ大きな成果を出すことができたのはなぜでしょう?

AIMRの研究活動がいちだんと高いレベルに引き上げられたのは、2007年の設立当時からの研究者たちのたゆまぬ努力の積み重ねがあればこそです。そこに数学と材料科学の連携という新しいビジョンを示したことで、個々の研究者の潜在的な研究力を引き出し共通の目標に集中させて、AIMRの強みを何倍にも大きくすることができました。材料科学は非常に複雑で、広範にわたる研究分野ですから、そのすべての領域で世界的な名声を博することは不可能です。そこで私たちは、数学と材料科学の協働という枠組みになじみやすいターゲットプロジェクトに力を傾注することにより、数学と材料科学の両方の観点から、挑戦し甲斐がある、魅力的な研究テーマを決定したのです。

AIMResearchAIMRにとって、2014年はWPIプログラムによる10年の支援期間の8年目にあたります。AIMRの今後について、長期的にはどのような展望をお持ちですか?

私は東北大学の里見進総長と何度も会って、AIMRの東北大学への貢献を説明してきました。AIMRの主任研究者の人数は多くはなく、その半数が外国人なのですが、AIMRの外部獲得研究資金は東北大学全体の5~6%を占めています。この規模の研究所としては、これは注目に値する数字だと思います。

里見総長は、AIMRが東北大学のシステム改革に非常に大きな貢献をしていることを高く評価し、東北大学として、AIMRのように国際的で、学際的な研究を行う組織を常置することを正式に決定しました。その組織は、数カ月後に設立される予定です。

AIMRが長期的に持続することは非常に重要です。新しい方向に進みはじめた若手研究者にとっては、今後のキャリアを左右するため特に重要になります。彼らはとても良い研究をしており、このまま研究を続けられるようにすることは、私の義務です。彼らにとって、AIMRよりも良い場所があるでしょうか?