国際シンポジウム
数学との連携の成功を確信した3日間
2014年04月25日
AMIS 2014(2月17日-19日、仙台国際センター)で発表された数々の成果は、数学と材料科学の融合研究というユニークな取り組みが早くもはじまっていることを強く印象づけた
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)が毎年開催している「AIMR International Symposium(AMIS)」は、世界のトップクラスの研究者とAIMRの研究者が互いの成果を発表し、最先端の研究について議論を交わすことのできる絶好の機会である。AMIS 2014では「数学との連携による新しい材料科学の創生」というテーマの下、材料科学に数学の視点を導入して得られた知見が発表されると同時に、材料科学分野に革新をもたらしたトップ研究者の講演が行われ、13か国・52の研究機関から236人の研究者が参加してシンポジウムは始まった。
開会の挨拶を述べた里見進東北大学総長は、参加者を温かく歓迎するとともに、「数学の視点を導入した材料科学研究という新しいパラダイムを打ち立てることにより、ワールドクラスへの飛躍を目指す東北大学に対して大きな役割を果たしています」とAIMRの取り組みを称賛した。続けて、環境問題に対する材料科学の重要性を指摘し、「グリーンマテリアル開発の基礎を作り、再生可能エネルギー資源の開発へ貢献するなど、材料科学が社会に果たす役割は非常に大きい」と語った。この目標を達成する上で欠かすことのできない存在が、3か所のAIMRジョイントリサーチセンター(英国・ケンブリッジ大学、米国・カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)、中国科学院化学研究所)を含む、AIMRの22の海外連携機関のネットワークであり、国際連携の重要性が改めて確認された。
次に挨拶の言葉を述べた宇川彰WPIプログラムディレクター代理は、基礎数学と応用数学が社会の発展にとっていかに重要であるかを強調し、数学と実験科学が影響を及ぼし合う中で、相対性理論や量子力学など、歴史上多くの概念が生まれてきたと指摘した。そして、「数学と科学は、互いに協力し合うときに最も多くの実りをもたらします。ですから、大きな野心をもってください。歴史は皆さんの味方です」と若手研究者を激励した。
最後に挨拶を行った小谷元子AIMR機構長は、2011年から進めているAIMRの改革について進捗状況を述べた。材料科学と数学の融合という新しい研究文化をめざす小谷機構長は、「AIMR内の組織を再編成するのに2年かかりました」と語り、新しい体制で研究を促進する鍵となったのは「ターゲットプロジェクト」の設定だったと付け加えた。ターゲットプロジェクトは、数学の利点が最大限に作用する可能性のある3つのテーマ(数学的力学系に基づく非平衡材料、トポロジカル機能性材料、離散幾何解析に基づくマルチスケール階層性材料)に焦点を当てており、2013年にScienceに掲載されたバルク金属ガラスに関する研究など、すでに画期的な成果が生まれている。小谷機構長は、数学の視点がAIMRの材料科学研究者の中に浸透し、数学者との活発な連携体制ができていることを喜び、「今回のシンポジウムで、新しい成果をご紹介できることを、非常にうれしく思います」と語った。
多彩な招待講演
開会の挨拶に続き、5名の招待講演者によるオープニングセッションが行われた。まず、カリフォルニア工科大学(米国)と東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構に所属する大栗博司主任研究員が、自身の数十年にわたる数学と理論物理学の境界領域での研究について語り、意外な関連をいくつか紹介した。そして、「数学者は普遍的なものを探し、物理学者は直接的な結果を求める傾向がある」と指摘し、数学者と物理学者の用語、モチベーション、研究習慣には違いがあるため、答を見いだす確率を高めるには、一方の「言語」での問題をもう一方の「言語」に翻訳することが重要であると語った。
ルンド大学(スウェーデン)の化学者Håkan Wennerström教授は、直径2~50nmの孔のあいたメソポーラス粒子の非平衡形成過程に関する知見を詳しく紹介した。続いて、皮膚や目の表面のように水が蒸発する気液界面での非平衡系の存在について説明し、この現象の理解は薬物輸送の改善につながる可能性があると語った。
次に、カリフォルニア大学バークレー校(米国)の物性物理学者Steven Louie教授が、1原子層の炭素シート「グラフェン」に関する最近の研究について語った。グラフェンは強度が非常に高く、軽量で、透明であり、非常に小さい抵抗で熱や電流を伝える材料である。Louie教授は、グラフェンの光エレクトロニクス特性に関する発見について論じ、これらは非常に面白い新世代の電子デバイスを可能にするだろうと述べた。
最後の2講演は、数学が材料科学の発見を刺激する力の強さを実感させた。清華大学(中国)の副学長でAIMR主任研究者である物理学者のQi-Kun Xue教授は、以前は理論的に推測されていただけだった磁性トポロジカル絶縁体における異常量子ホール効果を確認した自らの実験について語り、「この観測で、3種類の量子ホール効果のすべてが出そろいました」と今回の成果の意義を説明した。
オープニングセッションを締めくくったUCSBの理論物理学者James Langer教授は、数学モデルを用いたガラスの力学的研究に関する考察を述べた。「ガラス中の気泡は信じられないほど美しく、重要で、その古典物理学的特性は深遠な謎です」と言い、この問題を解くためには、「ガラスを形成する材料のごく単純で現実的なモデルに注目する必要があります」と語った。
第4のターゲットプロジェクト
3日間にわたって開催されたAMIS 2014では、6つのプレナリーセッション、4つのパラレルセッションに加え、100件近いポスター発表が行われた。講演は6か国・32名の研究者によって行われ、非平衡系と数学からソフトマテリアルとエネルギー材料にいたるまで、広範なテーマがカバーされた。
最終日の19日、塚田捷AIMR事務部門長が閉会の辞を述べるとともに、第4のターゲットプロジェクト「ナノエネルギーデバイス基盤技術」を紹介した。この新しいプロジェクトは、再生可能エネルギー応用システムと、持続可能で環境にやさしい材料のための革新的なプロセシング技術の開発を行うことを目的としている。最後に、塚田氏は参加者全員を来年のAMIS(2015年2月17日-19日)に招待し、シンポジウムは幕を閉じた。
小谷機構長はシンポジウム後に、「私たちがAIMRの改革に着手した当初、WPIの拠点構想進捗状況報告書には、魅力的な提案だが計画を実現できるか心配であると書かれていました。けれども、今年の報告書には、AIMRのプロジェクトは予想よりはるかに速く進んでいると評価されていました」と努力の成果を語った。「私たちが進んでいる道は正しいと確信しています」と自信を見せる小谷機構長。AIMRの現在の方針が、グラフェン、炭素ネットワーク、ナノポーラス金など、多くの材料の構造と特性の理解にさらなるブレークスルーをもたらすだろうと予想しているという。