国際シンポジウム
数学との連携がグリーン・マテリアルを生み出す

2013年04月26日

2013年2月19日から21日にかけて、仙台国際センターで「AIMR International Symposium 2013」が開催された。世界中から集まったトップクラスの材料科学研究者たちが最先端の研究を紹介したほか、数学の力を利用したグリーン・イノベーションの実現に向けてさまざまな方法が提案された。

2007年の設立以来、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)では、バルク金属ガラス、材料物理、ソフトマテリアル、デバイス・システムという4つの分野において、世界をリードする材料科学研究者が革新的な融合研究を行っており、国内外から高い評価を受けている。2012年には数学ユニットも加わって、AIMR の研究活動は新たな段階に進み始めた。そのような中開催されたAIMR International Symposium 2013(2013年2月19〜21日、仙台国際センター)は、「材料科学と数学の融合を通じたグリーンマテリアル・イノベーションへの挑戦」をテーマに、14か国から240名以上の参加者が集まった。

「AIMR International Symposium」の開会の挨拶をする里見進東北大学総長。シンポジウムのテーマは、「材料科学と数学の融合を通じたグリーンマテリアル・イノベーションへの挑戦」だった。
「AIMR International Symposium」の開会の挨拶をする里見進東北大学総長。シンポジウムのテーマは、「材料科学と数学の融合を通じたグリーンマテリアル・イノベーションへの挑戦」だった。

今年のシンポジウムでは、数学分野から大勢の参加者が集まり、4人の数学者が講演を行うなど、材料科学研究に数学的視点を取り入れたAIMRの新たな研究方針を反映した大会となった。AIMRの新しい特色が、分野を超えて世界中の研究者の高い関心を集めはじめていることに対して、自身も数学者であるAIMRの小谷元子機構長は、「私たちは例年どおり、AIMRの研究者から講演者を推薦してもらい、その中から講演者を選びましたが、その結果、シンポジウムのプログラムに数学的な要素を含む講演が予想以上に多く集まったことは嬉しい驚きでした」と語る。そのうえで、「材料科学に数学の視点を取り入れるというアイデアが、AIMRの研究者の間に浸透してきたからでしょう」と喜びを語った。

シンポジウムは東北大学の里見進総長による開会の挨拶で幕を開け、参加者にむけた歓迎の挨拶とともに、AIMRのメンバーが世界レベルの研究プログラムを進めていることについて祝いの言葉が述べられた。東北大学の「研究第一」と「実学尊重」の理念から、卓越した業績をあげるAIMRは今後も東北大学にとって欠かすことのできない役割を果たし続けるだろうと指摘しつつ、19の海外連携機関と3つのサテライト機関(米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校、中国科学院化学研究所、英国ケンブリッジ大学)を持つAIMRの国際性を称賛し、材料科学と数学を融合する新しい取り組みを成功に導くために、東北大学は今後もAIMRを支援しつづけることを約束した。

続いて、来賓挨拶を世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の黒木登志夫プログラム・ディレクターが行い、材料科学に数学を導入するアプローチがAIMRの研究活動にとって非常に重要であることを重ねて強調し、AIMRはすでに高いレベルの業績をあげているだけでなく、このアプローチの導入により「新しい文化とパラダイムシフト」をもたらしたと述べた。

ノーベル化学賞受賞者であるパデュー大学の根岸英一特別教授は、ジルコニウム触媒を用いた付加反応の研究について講演を行った。
ノーベル化学賞受賞者であるパデュー大学の根岸英一特別教授は、ジルコニウム触媒を用いた付加反応の研究について講演を行った。

最後に挨拶を行った小谷機構長は、材料科学を物理学、化学、工学と組み合わせて、社会に貢献できる新しい材料を創成することがAIMRの目標であることを改めて主張した。これは、資源や環境など、人類が直面している数多くの問題を解決するためにも不可欠な目標だが、達成するのは容易ではない。小谷機構長は、AIMRの当初の設立計画を再検討し、目標達成には数学の力を借りて融合研究を加速させる必要があるという結論に達したという。それ以降考察を重ねて、数学的力学系に基づく非平衡材料、トポロジカル機能性材料、離散幾何解析に基づくマルチスケール階層性材料という、3つのターゲットプロジェクトを決定した。これらは現在、AIMRでの研究の核をなしている。小谷機構長は挨拶の中で、AIMRが世界各国の優秀な研究者を育てるインキュベーターとしての重要な役割を果たしていることにも触れ、より多くの海外の研究者がAIMRの研究に参加することを期待していると述べた。

3名の開会の挨拶に続き、パデュー大学(米国インディアナ州)の根岸英一特別教授が「遷移金属の不思議な力:過去、現在、未来」という題目で特別講演を行った。遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応に関する研究により2010年のノーベル化学賞を共同受賞した根岸特別教授は、ジルコニウム触媒を用いた付加反応について概説し、材料科学の発展における遷移金属化学の重要性について語った。

その後、東北大学省エネルギー・スピントロニクス集積化システムセンター長でもあるAIMRの大野英男主任研究者(2012年IEEEデビット・サーノフ賞受賞)が、強磁性半導体に関する最新の研究成果について、WPI拠点の1つである国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)の青野正和拠点長が、材料ナノアーキテクトニクスの最新の動向について、理化学研究所脳科学総合研究センターの甘利俊一センター長が、ニューラルネットワークとナノマテリアルのそれぞれに対する現代的な離散幾何解析の比較について講演を行い、オープニングセッションを終了した。

シンポジウムには240名以上の参加者が集まった。数学分野からの参加者も多く、4人の数学者が講演を行った。
シンポジウムには240名以上の参加者が集まった。数学分野からの参加者も多く、4人の数学者が講演を行った。

プレナリーセッションでは、AIMRでの研究内容の多様性と、参加者の国際性を反映して、数学と計算、スピントロニクス、プロセスと機能という3分野について、スイス、日本、ポーランド、ドイツ、英国、米国からの参加者が講演を行った。シンポジウム期間中、10のプレナリーセッションとパラレルセッションにおいて合計32にもおよぶ講演が行われたほか、2日間にわたって、90のポスター発表が行われた。

2月21日に行われた閉会式では、塚田捷AIMR事務部門長がシンポジウムのオーガナイザー、講演者、参加者に感謝の意を表し、その場の全員を次回シンポジウムに招待して「AIMR International Symposium」は閉会した。

シンポジウムを終えた小谷機構長は、「私は、去年のシンポジウムの閉会の辞で、数学と材料科学の連携を通じて学際的な研究を加速するという方針を説明しました」と語り、昨年からの1年間を振り返った。「実はその頃、自分たちの決断は正しいという確信だけはあったものの、連携に関するアイデアはまだ形をなしていませんでした。それから多くの議論と協議を重ねて、戦略を具現化するためのターゲットプロジェクトを3つ定め、この方向で研究を進めるための努力を1年間、集中的に行ってきました。その結果、まだ初期の段階ですが数学と材料科学の連携による成果が発表されたことに確かな手応えを感じています」。