若手研究者特集
違いを学ぶ

2011年01月31日

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(WPI-AIMR)の若手研究者たちは、お互いの強みを理解しはじめている。しかし、新しい機能性材料を発見するために乗り越えなければならない課題もある。

AIMResearch皆さん、本日はようこそお越しくださいました。WPI-AIMRは2007年の発足以来、材料科学の新しい分野を切り開くために、世界中から優秀な研究者を集めています。まず、皆さんがWPI-AIMRに入るに至った経緯と、現在の研究内容を教えて下さい。

中嶋健准教授:私は東京大学でポリマー物理学の研究により博士号を取得した後、理化学研究所でポスドクをし、その後東京工業大学の助手になりました。けれども私の生まれは仙台で、東北大学は日本で最高峰の大学の1つとして知られています。そこで、WPI-AIMRのソフトマテリアル研究グループに移り、現在は准教授を務めています。

中嶋健准教授
中嶋健准教授

AIMResearch東京から仙台に戻ってこられていかがですか?

中嶋准教授:光栄に思っています。WPI-AIMRの組織構造はユニークで、多くの新しい挑戦をすることができます。大勢の外国人研究者と一緒に仕事をしていると、科学について幅広い洞察を得ることができます。私は今、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を使って、ポリマーとその力学特性について研究しています。

Limei Xu助教:私がここに来たのは、偶然の出来事がきっかけです。ヨーロッパの学会に参加していたときに、WPI-AIMRのパンフレットをもらったのです。WPI-AIMRが材料科学分野で世界をリードする研究所であることは知っていたので、材料科学へ分野を変更するよい機会かもしれないと思い、すぐに応募しました。 

AIMResearch異分野への転進は難しかったですか?

Limei Xu助教
Limei Xu助教

Xu助教:私は、ボストン大学のポリマー研究センターで、統計物理学を用いたガラスやポリマーの臨界現象の研究により、博士号を取得しました。現在はWPI-AIMRのバルク金属ガラス研究グループの助教です。私は材料科学にはなじみがなく、ポリマーからバルク金属ガラス(BMG)分野への転換は容易ではありませんでした。以前の私の研究はもっと基礎的で、一般的な材料に関するモデルをつくっていました。ここWPI-AIMRでは、研究者たちはきわめて具体的な材料に取り組んでいます。理論家である私にとって、多種多様な材料の特性を組み込んだモデルをつくることは非常に難しく感じられます。

上野和紀助教:私は、つくばの産業技術総合研究所(AIST)で博士号を取得しました。当時、AISTのチーム長だったのが、私の現在の上司である川崎雅司教授でした。川崎教授は東北大学金属材料研究所教授も兼務されていて、ここは材料科学の分野で非常に有名なので、私は川崎教授のグループでポスドクをすることにしました。その5年後にWPI-AIMRが設立されたので、躊躇なくここに参加したというわけです。

上野和紀助教
上野和紀助教

AIMResearchWPI-AIMRのどこに魅力を感じたのですか?

上野助教:新しい材料科学研究グループは、私のような若手研究者にとって、非常に魅力的でした。私は今、材料物理研究グループの助教として、酸化物材料とセラミックスの研究をしています。具体的には、半導体デバイス、超伝導体、電界効果トランジスタへの応用です。現在は、セラミックスを有機材料と結合させて、新しい特性をもつ材料をつくり出そうとしています。

AIMResearchCaron研究員はフランスのご出身ですね。どうして日本に来ようと思ったのですか?

Arnaud Caron研究員:フランス生まれの私が日本に来た理由の1つは好奇心です。私は、ドイツのザールラント大学で博士号を取得し、同じくドイツのウルム大学でポスドクをしました。ウルム大学での指導教官だったHans-Jörg Fecht教授が、たまたまWPI-AIMRの連携教授で、ここの研究員に応募してみてはどうかと言われたのです。私は、若いうちから視野を広げておきたいと思っています。WPI-AIMRは国際色豊かな研究所なので、さまざまな分野や国籍の人々と交流することができます。私はヨーロッパとは違うものを見るために、ここに来たのです。

Arnaud Caron研究員
Arnaud Caron研究員

AIMResearchWPI-AIMRではどんな研究をしていますか?

Caron研究員:BMG研究グループのポスドクとして、超音波や近距離音場などの音響法を用いた手法を用いて、BMGの機械的特性、特に摩擦特性を調べています。WPI-AIMRに来てからは、SPMを用いてBMGの機械的特性を調べています。

AIMResearchWPI-AIMRに応募したときの手続きを説明してください。

Caron研究員:まずは履歴書にカバーレターを添えてWPI-AIMRに送付しました。それから仙台で現在の上司であるDmitri Louzguine教授と会い、一緒にどんな研究ができるか話し合いました。彼は強い関心を示してくれました。応募から3か月後に、私は日本に来ました。

AIMResearch外国人研究者のためのサポート体制はどうですか?

Caron研究員:WPI-AIMRでは、助成金の申請などの事務的な面だけでなく、日常生活のサポートも受けられます。問題が生じたらすぐに、山本嘉則機構長やWPI-AIMRの事務局に相談できます。

AIMResearch中嶋准教授は、現在、どのようなプロジェクトに取り組んでいますか?

中嶋准教授:ポリマーは、単一成分材料として用いることができず、別のポリマーや無機材料と混合する必要があります。このとき、2種類の材料間の界面が重要になります。私は今、Xu助教と共同で、ポリマーの界面の特性を調べています。BMGの研究者ともプロジェクトを行っています。材料を混合して、新しい機能性材料をつくることを計画しているのです。うまくいくかどうかはまだわかりませんが、それが私たちの目標です。

AIMResearchXu助教のモデルを中嶋准教授の研究に応用することはできるのですか?

Xu助教:それが私の夢なのです!私のモデルは理論的にはうまくいっていますが、実際の材料でどのくらいうまくいくかは不明です。私のモデルの長所は、きわめて一般的であることです。けれどもまだ、答えを出さなければならない具体的な問題がいくつかあります。今日の材料科学の最大の問題の1つは、安定なBMG、すなわち「結晶化しにくいBMG」をつくることです。私の仕事は、そうした安定なBMGを見つけるための理論的基礎を提供することにあります。私のモデルは、ガラス―ガラス転移を通じて安定なBMGをつくれることを示しています。

AIMResearch上野助教とCaron研究員、現在のプロジェクトについて説明していただけますか?WPI-AIMRではどのような共同研究を行っていますか?

上野助教:私は塚田捷主任研究者グループの赤木和人准教授と共同研究をしています。赤木准教授は、有機ポリマーとその他の材料が接する界面の理論シミュレーションを行っています。私が取り組んでいるデバイス応用は、セラミックスと有機材料の界面に依存するので、この共同研究からは非常に重要な知見がもたらされます。

Caron研究員:私は中嶋准教授と共同でBMGの摩擦特性を研究しています。BMGは微小電気機械システム(MEMS)などのマイクロデバイスに利用できる可能性があるため、マイクロスケールでの特性は非常に興味深いです。私たちはシリコンとBMGの間の摩擦特性を研究し、酸化物層の役割と、BMGの緩和状態の解明をめざしています。この実験には、中嶋准教授のSPMに関する経験が非常に役立っています。

AIMResearchBMGをどのようにしてMEMSに使うのですか?

Caron研究員:BMGをガラス転移温度以上まで加熱すると、過冷却液体状態になり、マイクロギアやカンチレバーなどのデバイスへと容易に加工することができるのです。

AIMResearch短期的な目標は何ですか?研究をすすめる上で、どのような難しさを感じていますか?

 
 

中嶋准教授:WPI-AIMRは、材料科学、物理学、化学、工学などの従来の研究分野の間に橋をかけて新しい機能性材料をつくり出す、いわゆる「融合研究」をミッションの1つに掲げています。これは非常に重要なことだと思います。私たちは、BMGグループ、半導体グループ、ポリマーグループ、ソフトマテリアルグループの間で共同研究を行っています。これはユニークな構造です。WPI-AIMRは定期的にセミナーを開いており、私たちはお互いのことや、異なる研究分野のことを理解しはじめています。それと同時に、融合研究の難しさもわかってきました。将来的には新しいものを創造できると思っていますが、一朝一夕で成し遂げられることではありません。

Xu助教:そうですね、よくわかります。時間がかかりますね。私は、ここにいるほとんどの研究者と違うバックグランドをもっています。彼らは工学寄りで、私は理論寄りだからです。そこには大きなギャップがあります。WPI-AIMRのセミナーに行くと新しい知識を吸収しますが、それはこれまでの専門分野に特化したセミナーから得ていた知識とはレベルが違うと感じています。新参者の私にとって、ここのセミナーの情報量は膨大で、その中から本質的な部分をたやすくつかむというわけには、なかなかいきません。

上野助教:WPI-AIMRのよい点は、研究室のドアが常に開いていることです。おかげで、議論する相手が必要になったときには、容易につかまえることができます。また、物理学者だけでなく、生物学者や化学者とも付き合えることは、私の視野を広げ、成長するのに役立っていると思います。

Caron研究員:海外にいるWPI-AIMRのメンバーとのコミュニケーションも容易です。スカイプや電子メールがありますし、彼らは年に数回来日します。研究について議論しやすい環境ができあがっています。

AIMResearch本日は、貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございました。

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