機構長インタビュー
変革の時を迎えて

2010年11月29日

2010年10月に設立3周年を迎えたWPI-AIMRの山本嘉則機構長が、機構の未来のビジョンについて語った。

WPI-AIMRの山本嘉則機構長は、WPI-AIMRの異分野の研究者同士の交流がますますさかんになることを期待している。
WPI-AIMRの山本嘉則機構長は、WPI-AIMRの異分野の研究者同士の交流がますますさかんになることを期待している。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)は、文部科学省の新たなイニシアチブのもと、世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムの5か所の拠点の1つとして2007年に発足した。発足から今日までの3年間、WPI-AIMRはすこぶる順調に歩んできた。日本の材料科学をリードする研究機関としての地位を確立し、国際的にも高い評価を得た今、WPI-AIMRの関心は次の段階の発展に向かいはじめている。AIMResearchは、世界的に名高い化学者である山本嘉則機構長から、機構の舵取りにあたった3年間の成果と挑戦、そして機構の未来の方向性について話を聞いた。

AIMResearch: WPI-AIMRは広範で学際的な研究に取り組んでいます。これまでの3年間で最大の成果は何でしょうか。

WPI-AIMRプログラムには2つの主要な目標があります。1つは、融合研究を通じて新しい革新的な材料を開発すること、もう1つはWPI-AIMRにとって最適な新しい管理システムを確立することです。けれども、こうした目的を達成するのは容易なことではありません。

WPI-AIMRには、バルク金属ガラス、材料物理、ソフトマテリアル、デバイス/システムという4つの研究グループがあり、いずれもこの3年間で大幅な躍進を遂げています。例えば、バルク金属ガラス分野では、金属ガラスナノワイヤの制御形成に関する論文を『Advanced Materials』誌に発表しました1。ナノワイヤは幅広い応用の可能性がある材料ですが、私たちは金属ガラスでこれを作製することに初めて成功しました。材料物理分野では、超伝導のメカニズムに関する論文を『Europhysics Letters』誌に発表しました2。WPI-AIMRには世界一強力な角度分解光電子分光装置があり、これを使って、超伝導状態では電子のスピンが重要な役割を果たしていることを示したのです。この論文は、現時点で300回以上引用されています。ソフトマテリアル分野では、ナノ細孔を持つパラジウム触媒を作っています。デバイス/システム分野では、バルク金属ガラスを微小電気機械システム(MEMS)のはんだ材料として利用する研究をしています。

AIMResearch: 機構を設立し、その初期段階の運営にあたることは容易ではなかったはずです。例えば、どのような困難があり、どのようにしてそれを克服されたのでしょうか?

研究者たちに、「自分の専門分野の外に飛び出してほしい」と呼びかけるのは、かなりの挑戦でした。上級研究員は自分の専門分野にとどまりたがります。その分野の研究コミュニティーに強い影響力を持っている研究者の場合は特にそうです。若手研究員も、新しい研究に挑戦する前に、まずは自分の専門分野を確立しておきたいと考えるものです。けれども私は、優秀な研究者というものは、どんなに困難であっても、広い視野で科学を見わたすことができなければならないと思っています。WPI-AIMRでは、若手研究員たちはしばしば研究室から研究室へと飛び回っています。大規模な共同研究も進められています。これは非常に良いことだと思います。とはいえ、私たちがめざしている融合研究は、単なる共同研究よりはるかに大きいものなのです。WPI-AIMRの研究者たちが、近い将来、共同研究を越えて、まったく新しい科学を創成することを願っています。

もう1つの挑戦は、管理システムの改革でした。日本のほとんどの主任研究員(PI)は平等主義に慣れています。全員が同じ広さのスペースを与えられ、同じ人数の研究員を雇い入れ、同額の給料を受け取るべきだと考えています。けれども、WPI-AIMRでは、すべてが業績によって決まります。優れた業績を残せば、より多くの研究員を雇うことができ、より広いスペースを与えられます。そのような管理モデルは日本では非常にまれですが、私は、WPI-AIMRにふさわしいシステムであると思います。

AIMResearch: WPIプログラムは、 研究のグローバル化を主要な目標としています。国際連携を強化するためのプランには、どのようなものがありますか?

例えば、バルク金属ガラス分野ではイギリスのケンブリッジ大学と共同研究を行っています。材料科学分野でも、中国科学院化学研究所(ICCAS)との共同研究を始めました。WPI-AIMRは材料物理学に強く、ICCASは材料化学に強いので、この共同研究は両者にとって有益であると思います。

AIMResearch: WPI-AIMRは先日、プロジェクトの進捗を評価するためのフォローアップ委員会による評価を受けました。主にどのような指摘と助言がありましたか?

私たちは毎年、WPI-AIMRプログラムの進捗状況をフォローアップ委員会に報告しなければなりません。今年は、プログラム・ディレクター(PD)とフォローアップ委員会の作業部会メンバーがWPI-AIMRを訪れ、2日間にわたり現地視察を行いました。彼らはその後、詳細な報告書を作成し、ヨーロッパ、米国、日本のプログラム委員会のメンバーに提出しました。7月に東京でプログラム委員会との面談があり、私たちは15分間のプレゼンテーションを行い、プログラム委員会のメンバーからいくつかの非常に厳しい質問を受けましたが、有益な助言も頂きました。例えば、WPI-AIMRの研究の水準は非常に高いと評価されましたが、融合研究の促進と国際的に目に見える拠点づくりに関しては、より一層の改善が望まれると指摘されました。

2011年に完成する予定のWPI-AIMR新棟のイメージ図。
2011年に完成する予定のWPI-AIMR新棟のイメージ図。

AIMResearch: WPI-AIMRは2012年に第2期に入ります。将来的にはどのようなプランをお持ちですか?

私たちはWPI-AIMRプログラムのロードマップを策定しました。来年4月には、WPI-AIMRの主要研究棟が完成します。さらに10月には中間評価を受けることになっています。これは非常に重要な時期で、WPI-AIMRは、機構の運営、主任研究員(PI)およびすべての研究員について再評価を行い、変更が必要と思われる点があれば変更します。また、ミッション・ステートメントで明らかにしたように、研究の焦点を革新的な材料の開発に絞っていきます。2017年には、WPI-AIMRは第3期に入ります。そのときまでに、東北大学はWPI-AIMRプログラムで築いた材料科学に関する先端的な研究結果にもとづいて、新しい組織を立ち上げていなければなりません。

AIMResearch: 2011年4月に完成するWPI-AIMRの新棟が、研究プログラムにもたらすメリットは何ですか?

現在、WPI-AIMRの研究者の一部は青葉山キャンパスで研究を行っています。新棟が完成すれば、彼らは全員、片平キャンパスに移ってくることができます。融合研究を進めるためには、研究者は同じ研究棟にいなければなりません。研究棟は大きなビーカーのようなものです。私の仕事は、そのビーカーをかき混ぜることにあるのです。 

References

  1. Nakayama, K. S., Yokoyama, Y., Ono, T., Chen, M. W. Akiyama, K., Sakurai, T. & Inoue, A. Controlled Formation and Mechanical Characterization of Metallic Glassy Nanowires. Advanced Materials 22, 872–875 (2010). | article
  2. Ding, H., Richard, P., Nakayama, K., Sugawara, K., Arakane, T., Sekiba, Y., Takayama, A., Souma, S., Sato, T., Takahashi, T. et al. Observation of Fermi-surface–dependent nodeless superconducting gaps in Ba0.6K0.4Fe2As2. Europhysics Letters 83, 47001 (2008). | article