(6,5)カーボンナノチューブ: 三元系金属触媒を用いた超高純度合成の実現

2026年03月23日

NiSnFe触媒により、理想的なバンドギャップを有する半導体型(6,5)カーボンナノチューブを超高純度(95.8%)で合成

本研究を主導した加藤 俊顕教授

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カーボンナノチューブ(CNTs)研究における重要な課題の一つは、カイラリティを直接制御した単層CNTsの合成をいかに実現するかである。特に、応用上有用な小径半導体型CNTsのカイラリティを制御して合成できる技術の確立が重要とされている。カイラリティはナノチューブのバンドギャップ、光学応答、およびデバイス性能を直接的に決める要因の最重要因子であるため、その制御は非常に重要である。

しかし、従来の合成法ではさまざまなカイラリティの混合物が生成され、「選択的」と呼ばれる合成法でさえ、純度が50~80%に留まることがほとんどである。直径が太い半導体型の(14,4)CNTsと金属型の(12,6)CNTsに関しては90%を超える純度での直接合成が報告されているが、(6,5)CNTsのような小径半導体型のカイラリティでは未だ達成されていない。

2024年、AIMRの加藤 俊顕教授の研究チームは、触媒自体を再設計することでこの課題を解決する画期的な手法を提案した1。緻密に設計された三元系金属触媒を用いることでCNTs成長の核構造を正確に制御することが可能となり、これまで困難とされていた単一カイラリティのCNTs合成に成功した。

「本研究の新規性は、NiSnFeという新たな三元系触媒を開発しCNTs合成に活用したことです。ナノスケールのNiSnFe触媒粒子内にNi3Snという金属間化合物相が存在し、この化合物相が(6,5)CNTsの選択成長に直接的に寄与していることを見出しました」と、加藤教授は説明する。

この手法を用いて、研究チームは超高純度の(6,5)CNTs合成に成功した。フォトルミネッセンス法、紫外可視近赤外分光法、ラマン分光法によって確認された純度は95.8%に達した。また、単一カイラリティの(6,5)CNTsから形成されたCNTs束(バンドル)状構造では、その発光寿命が単独のチューブと比べて20倍以上長くなることが明らかとなった。

「従来の単一および二元系金属触媒はナノチューブの成長を誘導することはできるものの、カイラリティを選択的に制御する能力は限定的でした。今回、三元系金属触媒を用いることで、触媒ナノ粒子内に特殊な金属間化合物相を安定化できることを見出しました。これにより、(6,5)CNTs端の炭素原子配列と金属化合物相の間に原子レベルでの構造整合性が発現し、(6,5)CNTsの核形成が有利となります」と、加藤教授は語る。

本研究により、金属間触媒相を用いたカイラリティ制御が実証され、単一カイラリティのCNTsを合成するための触媒設計指針の一助となり得る戦略が示された。また、励起子特性が向上した単一カイラリティのCNTsバンドルの形成は、光エレクトロニクスおよび量子フォトニクス応用に新たな可能性を開く。

将来的には、この多元素系触媒のアプローチを拡張して、半導体や量子デバイス向けに任意のカイラリティを持つナノチューブを選択的に合成することを目指している。

A personal insight from Dr. Toshiaki Kato

最も印象的だったのは、修士課程の学生が触媒の組み合わせを系統的に探索する中で、偶然にも重要な触媒を発見したことです。特に大きな手応えを感じたのは、詳細な構造解析によってその触媒がなぜ機能するのかを解明し、実験結果を裏付ける成長モデルを提案できたことです。

これまで、3種類以上の金属元素からなる触媒はCNTs合成においてほとんど検討されておらず、本研究は従来の常識にとらわれない多元素系触媒という新たな方向性を切り開くものでした。仮説の妥当性を実証できたことは大きな励みとなり、将来の触媒開発に向けた設計指針を示す成果へとつながりました。

(原著者:Patrick Han)

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  1. Shiina S., Murohashi T., Ishibashi K., He X., Koretsune T., Liu Z., Terashima W., Kato Y.K., Inoue K., Saito M., Ikuhara Y. and Kato T. Synthesis of ultrahigh-purity (6,5) carbon nanotubes using a trimetallic catalyst ACS Nano 18, 23979-90 (2024). | DOI: 10.1021/acsnano.4c01475

加藤 俊顕

主任研究者

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。