無機ナノ化学: 金属酸化物ナノ粒子におけるサイズ効果を探る
2025年07月28日
連続フロー反応によってサイズの揃った超微小CeO2粒子の合成に成功

本研究を主導した横 哲准教授
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金属酸化物を超微小サイズ(<5 nm)まで小さくすることで結晶構造が歪み、電子状態が変化することで、予期せぬ特性が得られる「ナノサイズ効果」の可能性が、これまでの理論研究や間接的な証拠から予測されてきた。
しかし、金属や半導体とは異なり、金属酸化物のサイズ効果は、サイズの揃った高い結晶性を持つ超微小金属酸化物ナノ粒子の合成が困難であることなどから、まだ直接的な検証は行われていない。
「すべての試薬を密閉容器内で静的な条件下で混合、加熱、反応させる従来のバッチ合成法では、副反応が制御できず粒子生成が不均一に起こるため、さまざまな粒径の粒子が生成され、性質が予測できないことが一般的です。そのため、金属酸化物ナノ粒子のサイズ効果を調べるには、これまでとは異なる合成アプローチが必要となります」とAIMRの横哲准教授は説明する。
この課題の解決を目指し、2024年、横准教授らは、1.3 nmまでのナノ粒子サイズの精密な制御を可能にする連続フロー超臨界水熱合成法を開発した1。この方法のねらいは、有機修飾剤を用いたナノ粒子の安定化と、反応温度と修飾剤濃度による成長速度の制御を達成することだった。
この2つの目標を達成するために、研究チームは急速加熱用に設計されたフローリアクタ・プロセスと、Ceの反応への導入方法を制御するように調整された有機金属化学を組み合わせるというアプローチを採用した。その結果、高い再現性で、高い反応率、微細なサイズ制御、超微小CeO2ナノ粒子(<2 nm)の合成が可能となった。
この研究から、4 nm 以下のCeO2ナノ粒子は、初期段階の成長中に粒子の合体から生じる積層欠陥と、劇的な格子膨張を示すことが明らかになった。さらに研究チームは、酸素空孔がなくても酸素の配置の乱雑化によってCe3+の電子状態が出現するという、これまでに報告のない現象も発見した。
「私たちのこの研究は、CeO2ナノ粒子で観察される構造歪みと電子局在化が、従来の欠陥化学ではなくサイズ効果から生じることを実証した点で重要です。原子スケールで成長ダイナミクスを制御することにより、金属酸化物の電子および触媒特性を調整するという、これまでにない発想の合成手法の開発につながる成果です」と横准教授は本研究の意義を説明する。
A personal insight from Dr. Akira Yoko
この研究で最も驚いた結果や発見は何ですか?
水熱反応における有機修飾メカニズムを理解したいというモチベーションで始めた基礎研究でしたが、それが有機―無機 複合化学の研究につながり、最終的には連続フロー合成用の前駆体を改良することになりました。最も驚いたのは、反応時間を40ミリ秒まで精密に制御することで、2 nm以下の超微小金属酸化物を連続的に合成できたことです。これらの微粒子は高い結晶性を持ちながら、酸素空孔をたくさん必要とせずに電子の局在化を引き起こす大きな構造歪みを示していました。また、私たちはナノ粒子の融合成長についても研究し、驚くべき結果を得ることができました。今回提案したこの方法は、他の多くの金属酸化物にも適用できる有望な手法です。
(原著者:Patrick Han)
Highlight article
- Yoko A., Omura Y., Ninomiya K., Nishibori M., Fujita T., Kasai H., Nishibori E., Chiba N., Seong G., Tomai T. and Adschiri T. Fusion Growth and Extraordinary Distortion of Ultrasmall Metal Oxide Nanoparticles Journal of the American Chemical Society 146, 16324-31 (2024). | DOI: 10.1021/jacs.4c05106

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。