カーボンナノマテリアル: 機械学習でカーボンナノ構造の成長メカニズムを解き明かす
2025年05月26日
AIを活用した手法により、高効率かつ高精度な炭素成長シミュレーションモデルを開発

本研究を主導したHao Li教授(写真左)とDi Zhang助教(写真右)
Article highlight
金属表面上の炭素原子がどのように相互作用してグラフェンなどのカーボンナノ材料を形成するのか、その一連のプロセスをシミュレーションにより再現することは長年の課題であった。これが実現できれば、触媒基板上でのカーボンナノ構造の成長メカニズムをより深く理解することができる。そうした知見を積み上げることで、炭素原子の成長制御、新たな触媒・材料の設計、さらにはエネルギー効率の向上、スケールアップ技術の強化へとつながると期待される。
しかし、密度汎関数理論(DFT)や動的モンテカルロ(KMC)法といった従来の計算手法では、カーボンナノ材料形成における動的過程の複雑さを完全に把握することは困難であった。DFT計算は、計算コストが高いため、シミュレーションの対象が小規模な系に限られた。一方でKMC法は、触媒表面における原子レベルのダイナミクスを十分に捉えることができなかった。これらの制約により、カーボンナノ構造の成長に関する正確で予測力のあるモデルの開発は難航してきた。
2024年、AIMRのDi Zhang助教、Hao Li教授らの研究チームは、これらの課題に対処するための能動学習モデルを開発した1。研究チームは、分子動力学(MD)法とtime-stamped force-biased(tf)MC法を、原子間ポテンシャルの機械学習法であるガウス近似ポテンシャルと組み合わせ、金属表面におけるカーボンナノ構造の成長を効率的にシミュレーションする手法を生み出した。また、Smooth Overlap of Atomic Positions(SOAP, 原子の配列を表現する記述子)に基づくデータ選択の戦略を統合することで、トレーニングセットを最適化し、予測精度を向上させた。
Zhang助教は、「この研究の革新的な点は、即時学習型のon-the-fly機械学習トレーニング手法にあります。このモデルは、最も関連性の高い原子配置を選択することで、継続的に自己改良を行うことができます。これにより、予測精度を高め、計算効率を維持しつつ、幅広い反応経路をリアルタイムで探索することが可能となっています」と、語る。
炭素原子の拡散、鎖の形成、グラフェンの核生成など、重要なプロセスを再現した結果、Cu(111)表面におけるカーボンナノ構造の成長が特定の順序に従っており、吸着された側の銅原子が構造の安定化に重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、シミュレーションによって酸素の混入がグラフェンの核形成を著しく阻害することが判明し、実際の実験結果と一致することも実証された。
本研究では、機械学習を活用することで、カーボンナノ材料の合成に最適な金属触媒を設計する際に有用な理論的アプローチを確立した。これらの知見は、グラフェンなどのカーボンナノ材料を効率的かつ大量に生産する際の基盤となり、エレクトロニクス分野やエネルギー貯蔵への応用が期待される。
A personal insight from Dr. Di Zhang
本研究で最も予想外だった点は何ですか?
最も予想外だったのは、能動学習が機械学習型力場のトレーニングセットを非常に効率的に改善したという点です。従来の手法はランダムサンプリングに依存しており、高精度なモデルを構築するためには、大規模なデータセットが必要でした。しかし、MD/tfMCによって強化されたサンプリングのアルゴリズムと能動学習を組み合わせることで、プロセスを合理化し、より少ないデータで高精度の予測を実現できるようになりました。戦略的サンプリングによって、必要なデータ量を削減しつつ精度を維持、あるいは向上できたことは、従来のアプローチに対して大きな進展をもたらす成果でした。
(原著者:Patrick Han)
Highlight article
- Zhang D., Yi P., Lai X., Peng L. and Li H. Active machine learning model for the dynamic simulation and growth mechanisms of carbon on metal surface Nature Communications 15, 344 (2024). | DOI: 10.1038/s41467-023-44525-z
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。