反強磁性: マイクロARPESで明らかになったNdSb表面電子状態のエキゾチックなふるまい

2025年04月28日

スピン分裂を示す表面電子状態を形成するメカニズム

本研究を主導した相馬准教授

近年、結晶対称性が電子状態にどのような影響を与えるかについて理解が深まり、その知見に基づき、超伝導体やスピントロニクス、トポロジカル絶縁体などの次世代技術の開発が進んでいる。しかし、次世代スピントロニクスの新材料候補として注目されている反強磁性材料においては、磁気的対称性の破れが表面電子状態のエキゾチックなふるまいにどのような影響を与えるかについてはよくわかっていない。

希土類合金ネオジウムアンチモン(NdSb)のような反強磁性材料は、スピンの向きがバラバラな原子で構成されているため、表面電子状態の計測が難しいという課題がある。これは、角度分解光電子分光(ARPES)のような固体表面の電子状態を調べる一般的な方法では、スピンの向きが異なる複数の微小領域を含む広い領域を計測対象とするため、平均化した結果しか得られないためだ。

そこで、AIMRの相馬清吾准教授らの研究チームは、微小な領域をピンポイントで測定できるマイクロARPESを用いてNdSbの計測を行った。その結果、3つの異なる領域ごとの表面電子状態を計測することに成功し、その成果を2023年に論文として発表した1

「私たちが開発したマイクロARPESでは、表面をマイクロフォーカスビームで照射することで、より微細な面積の電子状態を計測することができます。これにより、単一の微小領域における高解像度計測や温度依存性の測定が可能になります」と相馬准教授は説明する。

マイクロARPES解析からは、NdSbにおいて低温で観測される反強磁性秩序は、より高い温度(T > 16 K, NdSbのネール温度)で電子状態のスピン分裂が完全に消失するという興味深い結果が得られた。これは、バルク電子のスピン配向が表面電子状態のスピン分裂をもたらしている可能性を示唆している。

「この研究は、反強磁性体の表面電子状態は特定の対称性破れによって生じる可能性があることを示した画期的な知見です。この知見を応用することで、バルクの磁気秩序の制御によってダイナミックに表面電子を制御する技術の開発につながると期待されます」と相馬准教授は語る。

今後の研究では、反強磁性体の電子状態がトポロジカルな性質を有することを確認し、電子状態の制御技術をスピントロニクスや触媒、量子コンピューティングへの応用に活用していく予定である。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Honma A., Takane D., Souma S., Wang Y., Nakayama K., Kitamura M., Horiba K., Kumigashira H., Takahashi T., Ando Y. and Sato T. Unusual surface states associated with PT-symmetry breaking and antiferromagnetic band folding in NdSb Physical Review B 108, 115118 (2023). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。