リチウム空気電池: 高エネルギー密度と高耐久性を誇るグラフェンメソスポンジ正極が、電池性能の新たな可能性を切り拓く

2025年01月27日

新しいグラフェンベースの正極設計が、優れた容量、安定性、持続可能性を実現

本研究を主導した余助教

リチウム空気電池(Li-O2)が注目されている。従来のリチウムイオン電池(LIB)で使用されるコバルト(Co)やニッケル(Ni)などの希少金属を必要とせず、非常に高いエネルギー密度を有するからであるが、その利点を最大限に活かすためには、高い耐久性と大きな容量を持つLi-O2正極の開発が急務である。

AIMRの余唯助教は「従来のLIB正極設計では、大気中の酸素を十分に取り込むことができないだけでなく、充放電中に劣化しやすいバインダーポリマーを使用していました。そのため、電池の容量とサイクル寿命に制限が生じ、Li-O2の実用化が進まない原因となっていました」と、説明する。

近年、余助教、西原教授らの研究チームは、グラフェンの端(エッジ)がほとんど存在せず、グラフェン同士の積層が最小限で、階層的多孔質構造を有する自立型グラフェンメソスポンジ(GMS)シートを使用して、Li-O2の正極材料を作製した1。このグラフェンベースのアプローチにより、酸素によって劣化するバインダーを使用しなくて済むようになった。

「本研究における正極設計では、①酸素とリチウムイオンの流れを改善するための階層的な多孔質構造、②特定の反応サイトを最大化すると同時に材料を軽量化するための積層の削減、③安定性を向上させるためのエッジの排除、という3つの目的の達成による性能向上を目指しました」と、余助教は語る。

研究チームは、複数のスケールで孔径を精密に制御する多段階の製造プロセスを通じて、この正極材料が6300 mAh/gの質量容量、30 mAh/cm2の面容量、480 mAh/cm3の体積容量を達成できることを実証した。また、適切な電流密度条件で260サイクル以上の安定したサイクル性能を示した。

今後は、過酷な条件下におけるLi-O2のサイクル安定性の向上を目指し、リチウム金属負極設計の最適化に注力していく予定だ。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Yu W., Shen Z., Yoshii T., Iwamura S., Ono M., Matsuda S., Aoki M., Kondo T., Mukai S.R., Nakanishi S. and Nishihara H. Hierarchically porous and minimally stacked graphene cathodes for high-performance lithium–oxygen batteries Advanced Energy Materials 14, 2303055 (2024). | article

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