金属ガラスの結晶化: ガラス転移近傍における多形成長メカニズムの解明
2024年11月11日
透過電子顕微鏡のその場観察により、Ti-Ni-Cu-Fe合金が予想よりも速く結晶成長することを発見
金属ガラスが、ガラス転移温度(Tg)付近でさまざまな結晶多形をどのように成長させていくのか、そのメカニズムの根幹を理解することは、材料の特性を精密に制御することにつながり、従来とは異なる複合的な結晶ガラス材料の開発指針となる。
また、金属ガラスのTg付近における原子拡散は結晶成長よりも遅く、独立しているため、実際の結晶化実験では予期せぬ結果が得られることが多い。そのため、原子の拡散距離に関わらず、正確な結晶化メカニズムと成長速度については、依然として解明されていない。
この課題を解決するため、AIMRのLouzguine教授らは、透過電子顕微鏡(TEM)のその場観察、分析TEM、示差熱分析(DTA)、示差走査熱量測定(DSC)を組み合わせて、703 KにおけるTi-Ni-Cu-Fe合金の結晶化に関する研究を行った1。
「本研究の重要なポイントは、Ti50Ni22Cu22Fe6 合金のTgに近い703 KでTEMのその場観察を行ったことです。これにより結晶化の過程をリアルタイムで観察し、通常原子拡散が遅い温度における結晶の成長速度を直接測定できるようになりました」と、Louzguine教授は語る。
本研究では、実際のTi50Ni22Cu22Fe6 合金の結晶成長速度(約2×10-10 m/s)が、標準的な拡散モデルで予測される数値よりも著しく大きいことが判明した。
「TEMのその場観察を用いたことにより、結晶成長速度が、粘性から推定される熱的な長距離拡散で許容される速度よりも著しく大きいことがわかりました。これは、ストークス・アインシュタイン方程式が成立しないことを示唆しています。この原因は、ガラスと結晶の界面における拡散が、相間の熱力学ポテンシャルや化学ポテンシャルの違いによって加速されるためであると考えられます」と、Louzguine教授は説明する。
今後はこの手法を駆使して仮説を検証し、準結晶相を含むより複雑な多成分合金の結晶化について探究していくことにしている。
(原著者:Patrick Han)
References
- Louzguine-Luzgin D.V., Ivanov Y.P., Semin V., Nohira N., Hosoda H. and Greer A.L. On polymorphic crystal growth in a Ti-Ni-Cu-Fe system metallic glass at the glass-transition temperature Scripta Materialia 242, 115927 (2024). | article
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。