ヤヌス遷移金属ダイカルコゲナイドのナノスクロール: 一次元結晶の空間反転対称性を破る
2024年09月24日
精密な一次元ナノ構造を研究するための新たな手法
遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)は、その構造対称性によって物性を変えることができる二次元材料である。
この構造と物性の関係を示す具体例として、多層の二硫化タングステンナノチューブ(WS2ナノチューブ)における光起電力効果の向上や、キラルWS2ナノチューブにおける非相反輸送現象などが挙げられる。しかしながら、理想的なTMD構造を精密に作製することは依然として困難であり、技術的な課題となっている。
近年、AIMRの加藤准教授率いる研究チームは、ヤヌス構造を有する単層TMDを使用したナノサイズの巻物(ナノスクロール)の作製について報告した1。
加藤准教授は、「通常のTMDは、遷移金属の原子層が上下同一のカルコゲン原子層に挟まれた構造をしています。しかし今回の「ヤヌス化」プロセスにより、上部のカルコゲン原子を別のカルコゲン原子に置き変えることで、TMDの空間反転対称性を意図的に破りました。これは、従来の対称性を持つ単層TMDとは異なる新たな特性を持つ精密なナノ構造を創り出すことが狙いです」と、語る。
研究チームは、作製精度を最大限に高めるために、プラズマ処理による表面原子置換を行い、ヤヌスWSSeおよびヤヌスMoSSe単層シートを作製した。その後、溶液処理によってこれらの単層シートを巻き取り、一次元ナノスクロールを作製した。
「本研究では、「ヤヌス化」の反応条件を精密に調整するために、TMDのラマンスペクトルをヤヌス化処理中に直接測定可能な装置を開発しました。また、非常に小さな直径で均一かつ精密なナノスクロールを作製するために、簡便な液体処理と乾燥プロセスも開発しました」と、加藤准教授は説明する。
研究チームはこの新たな戦略を用いて、AIMRをはじめとしたさまざまな理論・実験研究グループと連携し、低次元材料の新しい構造と物性の関係を解明するための研究分野を開拓している。
(原著者:Patrick Han)
References
- Kaneda M., Zhang W., Liu Z., Gao Y., Maruyama M., Nakanishi Y., Nakajo H., Aoki S., Honda K., Ogawa T., Hashimoto K., Endo T., Aso K., Chen T., Oshima Y., Yamada-Takamura Y., Takahashi Y., Okada S., Kato T. and Miyata Y. Nanoscrolls of Janus Monolayer Transition Metal Dichalcogenides ACS Nano 18, 2772−2781 (2024). | article
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。