2D遷移金属ダイカルコゲナイド: フェルミオロジーとエキゾチック量子相の相互作用の解明

2024年08月09日

単原子層NbTe2における特異な電子相関を示す金属状態から見出した新たな知見

本研究を主導した菅原准教授

2次元(2D)遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)において、モット絶縁相や金属中の電荷密度波(CDW)といったエキゾチックな量子相を制御する技術は、新しい電子・量子デバイスアプリケーションの実現に不可欠である。

一方で、これらを実現するにはTMDのCDW・モット絶縁相などの物性の背後にある根本的なメカニズムをより深く理解する必要があった。

AIMRの菅原准教授率いる研究チームは、単原子層の二テルル化ニオブ(1T-NbTe2)に着目し、このメカニズムの解明に取り組んできた。そして2023年、複数のNb原子によって形成された「ダビデの星」型構造が隙間を空けて配列することで、電子が自由に単原子層内を動き回ることができるようになり、金属としての性質を示すことを明らかにした1。これは従来とは異なる新たな種類の2D TMDの物性であった。

菅原准教授は、「単原子層1T-NbSe2などの他のTMDは、CDWとモット絶縁相が共存する系であることが知られていました。本研究は、当時は注目されていなかった1T-NbTe2の電子状態を明らかにすることでそれらの発現機構を解明することを目的としていました」と、語る。

AIMRの共同研究チームは、1T-NbTe2の電子状態について、マイクロ集光角度分解光電子分光法(µ-ARPES)、走査型トンネル顕微鏡法(STM)、第一原理計算を用いて調べた結果、モットギャップの特徴を示さない特異な金属相を発現していることを見出し、その原因が、隠れたフェルミ面のネスティングに伴うダビデの星に関連したCDWの形成であることを突き止めた。これは、同一の結晶構造を有する1T-NbSe2がダビデの星によってモット絶縁体として示す性質とは対照的であった。

「私たちの研究結果は、TMDのモット絶縁相を特徴付ける上で基礎となるフェルミオロジーが重要な役割を果たすことを浮き彫りにしました。また、フェルミオロジー、電子相関、2D物質におけるエキゾチックな量子相の相互作用について新たな知見をもたらしました」と、菅原准教授は説明する。

現在研究チームは、AIMRの他の研究チームと協力し、まだ発見されていない単原子層TMDの量子現象や機能性を探求している。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Taguchi T., Sugawara K. Oka H., Kawakami T., Saruta Y., Kato T., Nakayama K., Souma S., Takahashi T., Fukumura T., and Sato T. Charge order with unusual star-of-David lattice in monolayer NbTe2 Physical Review B 107, L041105 (2023). | article

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