金属合金加工: 強度と延性のトレードオフを打破

2024年07月22日

マルエージング処理と逆変態処理による組成および微細構造の不均一性

本研究を主導したKim教授

金属合金は、求められる特性に応じて調整できる汎用性の高い材料である。一方で、これらの材料で超高強度と優れた延性を両立させることは、長年の課題であった。

例えば、既存のマルエージング処理(マルテンサイト相の時効処理)を行うと、析出物を介して合金の強度を高めることができる。しかしながら、これらの析出物は合金を脆くし、延性を制限するといった負の側面もあった。そのため、この手法を強度と延性の両方が求められる用途に適用することは困難であった。

2023年、AIMRのHyoung Seop Kim教授とその研究チームは、マルエージング処理と逆変態処理(高温での追加熱処理)(M&R)により、強度1.6GPa、延性約25%の新たな二相ミディアムエントロピー合金(MEA, Fe68Ni10Mn10Co10Ti1.5Si0.5 (at%))を開発することに成功した1。彼らの研究戦略は、新たな急速低温逆変態法を使用することで、合金の組成と微細構造の両方の不均一性を誘発したことであった。

「今回開発したM&Rにより、鉄合金の逆変態オーステナイト粒子内にコアシェル構造と準安定オーステナイトを多く含む二相微細構造の両方を生成させることができました。これら2つの不均一性により、析出強化と変態誘起塑性の両方が同時に可能となりました」と、Kim教授は語っている。

材料科学分野では、長年にわたり、強度と延性のトレードオフの問題に直面してきた。しかし、Kim教授の研究チームがその問題を解決したことで、化学的不均一性と準安定相変態を利用して優れた機械的特性を持つ高度な構造材料を開発するという新たな手法の有用性が実証された。

現在、研究チームはこの手法を他のMEAやハイエントロピー合金にまで拡大し、これらの合金系の多様な組成を活用して、水素貯蔵性能や機械的特性を向上させる方法を模索している。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Haftlang F., Seol J.B., Zargaran A., Moon J. and Kim H.S. Chemical core-shell metastability-induced large ductility in medium-entropy maraging and reversion alloys Acta Materialia 256, 119115 (2023). | article

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