有機半導体: メチル化によるアセン化合物の結晶構造制御

2024年07月08日

分子凝集が生成物結晶の特性に及ぼす影響の予測に向けて

本研究を主導した瀧宮教授

有機半導体の性能は、分子構造と、結晶化によってどのように分子が凝集して固体になるかに左右される。

しかし、分子構造が性能に及ぼす影響については現代の化学でも信頼性の高い予測が可能だが、分子凝集の影響については弱い分子間力と不規則な分子形状の両方を考慮しなければならないため、未だに予測は難しい。

この課題を解決すべくAIMRの瀧宮教授らは、親分子の特定の位置にメチルチオ官能基を導入し、それが分子の凝集と半導体特性にどのような影響を及ぼすかを詳細に調べ、2023年に論文を発表した1

瀧宮教授は、「これまでに私たちは、ベンゾジチオフェン分子のβ位にメチルチオ基を導入すると、親分子の凝集構造がヘリンボーン構造からπスタッキング構造に変化することを報告していました。そこで今回、アセンタイプの親分子にこの方法を適用することで、より高いπ-π相互作用を持つ構造に結晶化できるのではないかと考え検証を行いました」と説明する。

研究チームは、メチルチオ化の程度が異なる4種類のアントラセンおよびテトラセン化合物を合成し、単結晶X線構造解析と単結晶電界効果トランジスタを用いて化合物の結晶構造と輸送特性を測定した。

「この研究の結果、メチルチオ基の導入により、親分子であるアセン化合物のヘリンボーン構造からπスタッキング構造へと結晶構造を変化させることができ、分子間π-π相互作用と輸送特性の両方が向上することが示されました。この結果は、今回のアプローチが剛直な平面構造を有する他の分子にも応用できることを示唆しています」と瀧宮教授はコメントしている。

今後研究チームは、他の分子に対してもこのアプローチを適用して新たな実験データを収集し、高性能な量子化学シミュレーションを活用して分子凝集が生成物結晶の特性に及ぼす影響を予測することを目指している。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Kanazawa K., Bulgarevich K., Kawabata K. and Takimiya K. Methylthiolation of Acenes: Change of crystal structure from herringbone to rubrene-like pitched π‑stacking structure Crystal Growth & Design 23, 5941-5949 (2023). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。