トポロジカル相: 非エルミート系で相互作用の影響を探究する
2024年06月24日
創発現象と対称性に迫る新たなアプローチ
近年、環境との相互作用が無視できない非エルミート系における理論的研究から、複雑な特徴を有する多様なトポロジカル相が次々と見出されている。しかし、その多くが一粒子系に焦点を当てたものであったため、複数の粒子が存在するときの粒子間の相互作用と非エルミート系のトポロジーとの関連に関する知見はまだ乏しい。
2022年、AIMRのWilliam Naughton Faugno特任助教と小澤知己教授は、複数の粒子が存在する時にだけトポロジカル相があらわれる非エルミート系を理論的に提唱した1。
Faugno特任助教はこの研究について、「私たちは、相互作用系における創発現象に焦点を当てて研究を行いました。創発とは、ある系がその部分の総和を超えた予期せぬふるまいを示す現象のことを指します。この概念は現代の多体物理学の礎となっており、複雑な系について理解を深める上で重要な役割を果たしてきました」と説明する。
研究チームはこのテーマに取り組むため、粒子間相互作用が密度に依存する動的なゲージ場の形であらわされるシンプルな1次元鎖モデルを提案した。そしてこのモデルを実験的に検証するために、Floquet理論という変調を用いた具体的な実験プロトコルを提案し、多体性に由来してカイラル対称性という対称性が創発することも発見した。
このアプローチにより、非自明なトポロジカル相のふるまいに対する動的ゲージ場の重要性が示されたと同時に、今回のFloquet理論を用いた提案のように、外部駆動技術によって興味深い非エルミート系を実現できる可能性が示された。
「本研究で見つかった創発的な対称性により、非エルミート多体系の研究が新しい現象の発見につながることが確認されました。さらに私たちは最近、この研究から着想を得て、古典的な(量子的でない)エルミート系に関する研究も行い、創発するカイラル対称性が果たす重要性を明らかにしました2」とFaugno特任助教は語る。
現在研究チームは多体量子系の非平衡物理に焦点を当てており、予備的な結果からは、熱平衡に達しない量子多体傷跡状態の出現が示唆されている。こうした知見は、将来のメモリー・デバイスへの応用につながると期待される。
(原著者:Patrick Han)
References
- Faugno W.N. and Ozawa T. Interaction-Induced Non-Hermitian Topological Phases from a Dynamical Gauge Field Physical Review Letters 129, 180401 (2022). | article
- Faugno W.N., Salerno M. and Ozawa T. Density dependent gauge field inducing emergent Su-Schrieffer-Heeger physics, solitons, and condensates in a discrete nonlinear Schrödinger equation Physical Review Letters 132, 023401 (2024). | article
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