ハニカム状多孔質膜: 油水分離の新たなアプローチ
2024年01月22日
精密な制御と幅広い適応性を実現する濡れ性の制御
環境汚染、水資源管理、工場廃水処理において、水と油を効率よく分離することは極めて重要である。これを実現するためのアプローチとして、ミクロンスケールの極めて薄い膜を用いて分離する方法が注目を集めている。
AIMRの藪教授は、「油水分離は、水と油いずれかの流体が膜表面に付着するというメカニズムに依拠しているので、従来の油水分離法では、膜が厚いほど分離能が向上するのが一般的でした。本研究では、多孔膜の濡れ性に着目し、油や水を多孔膜内に保持することで、油水分離を実現できる新たな潤滑薄膜の作製に取り組みました」と、研究について語っている。
2022年、藪教授の研究チームは、breath-figure法を用いて単層(~10µm)の高分子ハニカム状多孔質膜を作製した1。また、紫外線オゾン処理を用いて表面組成を変化させることで、油および水に対する濡れ性を左右する膜の孔径と濡れ性を制御することに成功した。さらに、わずか数ミクロンの厚みしかない膜で、mLスケールの油水分離が可能であることを実証した。
「これまでの報告では、超撥水性など膜の表面特性そのものを利用して、水から油を分離していました。一方、私たちの研究では、膜の表面特性を使ってどの液体が膜を充填するかを制御することで、その液体を通過できるように工夫しました。このアプローチの利点は、紫外線オゾン処理などにより、液体の濡れ性を制御することで水や油など、どのような液体を分離するか制御できることです」と、藪教授は説明している。
藪教授らは過去の研究で、気液分離やリチウムイオン伝導に高分子ハニカム状多孔質膜を応用できる可能性を見出していた2, 3。今後は、水資源から有害なPFAS(パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)を除去する手法の開発を目指していく。
(原著者:Patrick Han)
References
- Chen, B., Wada, T. & Yabu, H. Amphiphilic perforated honeycomb films for gravimetric liquid separation Advanced Materials Interfaces 9, 2101954 (2022). | article
- Chen, B., Wada, T. & Yabu, H. Underwater bubble and oil repellency of biomimetic pincushion and plastron-like honeycomb films Langmuir 36, 6365–6369 (2020). | article
- Grewal, M.S., Kisu, K., Orimo, S. & Yabu, H. Increasing the ionic conductivity and lithium-ion transport of photo-cross-linked polymer with hexagonal arranged porous film hybrids iScience 25, 104910 (2022). | article
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