2次元チャーン絶縁体: グラフェン領域への新展開

2023年09月25日

ツイスト2層グラフェンとの予期せぬ出会いが拓いたトポロジカル絶縁体のフロンティア

研究に取り組む小澤准教授

自分の論文を誰が読んでいるのかを知ることが、良い結果につながることもある。予期せぬ注目を浴びることで、自身のアイデアが新たな方向へと広がることも多い。

2021年の論文で、AIMRの小澤准教授とMera助教(研究当時)は2次元チャーン絶縁体のトポロジーと量子計量という、まったく異なる側面をとらえる2つの性質の関係を明らかにした1

研究チームはさまざまなチャーン絶縁体モデルを用いて研究を進め、トポロジーと関係するチャーン数と量子計量の積分(研究チームはこの量を量子体積と呼んだ)の間にある不等式が成り立ち、また、特定の条件下では、その関係が等式に近づくことを発見した。さらにこの等式の成立条件が、ケーラー多様体と呼ばれる複素幾何学の分野で研究されている数学的構造と関連していることを突き止めた2。チームは当初、こうした結果は、2次元トポロジカル絶縁体の特徴を探る研究者たちの関心を引くだろうと予想した。

しかし発表後、彼らはこの論文がツイスト2層グラフェン(TBG)における分数量子ホール(FQH)効果の研究者たちによってたびたび引用されていることに気がついた。

研究を主導した小澤准教授は「私たちがこの論文を執筆したとき、TBG系との関連性については考えていませんでした。しかしながら、TBGコミュニティからの関心が強いことを知り、不等式が等式になる条件が、TBGのマジック・アングルに相当する状況に直接関係している可能性があることに気づきました」と、背景について語っている。

研究チームは続く論文で、等式の条件を満たすトポロジカル絶縁体を表すためにケーラーバンドという概念を導入した。そして、FQH状態に寄与するコンスタントな曲率を持つバンドに焦点を当てることで、TBG系に関連づけた結果を導き出した。

小澤准教授は「TBGコミュニティからの思いがけない評価のおかげで、新しい分野を開拓し、自身の専門性を広げることができたのです」と、予期せぬ出会いに感謝している3

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Ozawa, T. & Mera, B. Relations between topology and the quantum metric for Chern insulators. Physical Review B 104, 045103 (2021). | article
  2. Mera, B. & Ozawa, T. Kähler geometry and Chern insulators: Relations between topology and the quantum metric. Physical Review B 104, 045104 (2021). | article
  3. Mera, B. & Ozawa, T. Uniqueness of Landau levels and their analogs with higher Chern numbers. arXiv:2304.00866 (2023). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。