錯体水素化物: 二価金属イオン電池実現の鍵を握る固体電解質

2023年05月29日

Ca2+伝導の実証からZn2+, Mg2+伝導への展開

開発した電池の電気化学的性能を測定する木須一彰助教

蓄電デバイスなどの持ち運び可能なエネルギーの需要が高まるなか、研究者たちはリチウムイオン (Li+) 電池に代わる次世代電池の開発に注力している。リチウムイオン電池よりも大きなエネルギー密度を有することはもちろん、電池を構成する材料として、資源が豊富で、環境に優しいことが求められている。これらを満たす材料として、近年特に注目されているのが、Ca2+、Zn2+、Mg2+などの二価の金属イオンを組み込んだ固体電解質(SSEs)である。

AIMRの木須助教、折茂教授らの研究グループは、クロソ型錯体水素化物を用いたSSEsに関する研究に焦点を当て、研究を進めてきた。2021年、本研究グループは、二価金属イオン電池の先駆けとなる論文を発表した1。この論文では、モノカルボランを対イオンとする電解質が、伝導を阻害するCaF2などの物質を発生させることなく(フッ素フリー)、Ca2+イオンを効率よく伝導できることを報告している。本研究成果は、二価金属イオン伝導の研究に新たな道を拓いた。

新規開発した全固体二価金属イオン電池

その後、同研究グループは、中性分子の添加が、Zn2+やMg2+の伝導性向上に有効であることを解明するなど、二価金属イオン伝導の発展に大きく貢献してきた。最近の研究では、MB12H12nH2O (n = 0–12 and M = Zn, Mg) 錯体水素化物において、結晶構造中に水分子を取り込むと、無水結晶に比べて、二価金属イオン伝導が促進されることを明らかにした2

研究を主導してきた木須助教は、「中性分子を添加する方法でクロソ型錯体水素化物を合成することにより、SSEsで多くの二価金属イオン伝導が可能であることを実証しました。また、Ca2+、Zn2+、Mg2+の伝導性を確立していくことで、錯体水素化物系イオン伝導体の合成におけるプラットフォームを発展させることができます。この成果によって、全固体二価金属イオン電池の実現に向けた研究開発が大きく前進することが期待されます」と語っている。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Kisu, K., Kim, S., Shinohara, T., Zhao, K., Züttel, A. & Orimo, S. Monocarborane cluster as a stable fluorine‑free calcium battery electrolyte. Scientific Reports 11, 7563 (2021). | article
  2. Kisu, K., Dorai, A., Kim, S., Hamada, R., Kumatani, A., Horiguchi, Y., Sato, R., Sau, K., Takagi, S. & Orimo, S. Fast divalent conduction in MB12H12∙12H2O (M = Zn, Mg) complex hydrides: effects of rapid crystal water exchange and application for solid-state electrolytes. Journal of Materials Chemistry A 10, 24877 (2022). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。