カゴメ金属: 電荷密度波と多軌道性の関係が明らかに
2022年04月25日
キャリア注入によりエキゾチックな量子状態の制御に成功
AIMRが率いる研究チームが、角度分解光電子分光(ARPES)と密度汎関数理論(DFT)を組み合わせた手法を用いて、キャリア(電荷担体)注入がカゴメ金属の電子構造に与える影響を調べた1。キャリア注入による電子構造の変化を観察した結果、CsV3Sb5の電荷密度波(CDW)が多軌道性の影響を受けることがわかった。今回の研究結果は、今後のカゴメ格子モデルにおいて、多軌道性の影響を考慮する必要性があることを示すものである。
原子がカゴメ金属で見られる「ダビデの星」格子のような複雑な結晶構造(図参照)を形成する場合、その相関電子系では、複雑なメカニズムを経て、エキゾチックな量子物性が発現すると考えられる。
近年、CsV3Sb5のようなカゴメ金属単結晶を対象に行われた測定結果は、CDWや超伝導に加えて、ワイル磁性相、電荷秩序、および異常量子ホール状態などのエキゾチックな状態が存在する可能性を示唆している。
しかし、こうした様々な発見にも関わらず、カゴメ金属のエキゾチックな状態を応用するために不可欠なその制御方法は未だ確立されていない。
「カゴメ金属に関する多くの研究は、格子欠陥やドーパントのない単結晶で行われてきました」と、論文の第一著者の中山耕輔助教は説明する。「我々は、カゴメ金属に対して制御環境下で摂動を加え、それによって相関電子がどのように変調されるのかを明らかにしたいと考えました」。
研究チームはキャリア注入による影響に着目し、Cs原子をCsV3Sb5単結晶の表面に吸着させ、ARPESとDFTシミュレーションを組み合わせて、様々な温度における電子状態の変化を観察した。
その結果、キャリア注入はCsV3Sb5の鞍点バンドを形成する電子軌道には変化を与えないが、他の電子バンドでは軌道に依存したエネルギーシフトが生じることを突き止めた。特に、キャリア注入とともにCDWが徐々に抑制されるのは、複数の軌道が関与するためであり、そのような多軌道の性質はCsV3Sb5の超伝導にも影響を与えると推測された。
「カゴメ金属を対象としたこれまでの理論的研究では、単一軌道モデルを適用したものがほとんどでした」と中山助教は言う。「我々の研究は、こうした複雑な物質のエキゾチックな特性をモデル化する際に、多軌道による効果を考慮する必要があることを示しました」。
研究チームは今後、超伝導に対するキャリア注入の影響や、このドーピング技術を用いてCDW相の境界付近で生じる他のエキゾチックな電子特性を増大させる手法を研究していく予定である。
(原著者:Patrick Han)
References
- Nakayama, K., Li, Y., Kato, T., Liu, M., Wang, Z., Takahashi, T., Yao, Y. & Sato, T. Carrier Injection and Manipulation of Charge-Density Wave in Kagome Superconductor CsV3Sb5. Physical Review X 12, 011001 (2022). | article
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。