酸素還元反応触媒: 新たな触媒設計原理を解明

2022年03月28日

燃料電池の脱白金化への一歩を踏み出す

鉄アザフタロシアニン(Fe-AzPc)を担持したケッチェンブラック(Ketjen Black: KB)触媒で生じる酸素還元反応を示す球棒モデル(担持は非表示)。黄色、灰色、青、赤、および白の球体はそれぞれ鉄、炭素、窒素、酸素、および水素原子を示す。背景は、走査透過型電子顕微鏡で撮影したKBに担持したFe-AzPc触媒の画像。

© 2022 Hiroshi Yabu & Patrick Han

AIMRが率いる研究チームは、化学合成、触媒活性、イオン化ポテンシャル計測と密度汎関数理論(DFT)シミュレーションを組み合わせて、青色顔料であるアザフタロシアニン(AzPc)系金属錯体を安価なカーボンブラックの一種であるケッチェンブラック(Ketjen Black: KB)に担持させた触媒による高効率酸素還元反応(ORR)活性を系統的に調べた1。この研究は、炭素上への分子担持の効果により触媒の最高被占軌道(HOMO)を変化させる仕組みが、将来的にORR触媒設計を決定する要因となる可能性を示した初めての成果である。

白金を使ったORR燃料電池触媒に替わる電極触媒の開発競争が激化する中、炭素系触媒材料研究の主流は高温熱分解処理から分子レベルの微細構造を制御する手法の開発へと移り変わりつつある。

「高いORR活性を持つ分子を炭素に担持することにより、鉄AzPcなど、有望なモデル触媒がいくつも見つかっています」と、論文の第一著者であるAIMRの藪浩准教授は語る。「この分野では今、分子構造による影響とORR活性を持つ分子と炭素との混合による相互作用を説明できる新しい触媒設計原理が必要とされています」。

今回、研究チームはAzPc系金属錯体をKBに担持させた触媒システムに注目し、実験と理論を組み合わせてNの位置が異なる異性体や鉄、ニッケル、銅などの中心金属が異なる金属錯体の影響および、炭素担持がORR活性に与える影響を調べた。

さらに、上記に示した様々なAzPc系分子触媒を作製し、それらのバンドギャップやORR活性の計測に加え、ORR過程および反応経路のDFTシミュレーションも行った。

金属錯体単体でも構造に依存して異なるORR活性を示すことが知られているが、DFTシミュレーション結果と実験結果を合わせて検討した結果、AzPc系金属錯体-KB間の相互作用により各触媒のHOMOが変化することが、ORR活性を左右することがわかった。

「鉄、ニッケル、および銅を比較したとろ、鉄AzPc金属錯体だけが4電子移動経路のORRを示し、KB担持との相互作用によって触媒のHOMOを酸素生成ポテンシャル以上に高め、ORRを促進することがわかりました」と藪准教授は述べ、次のように続けた。「今後のORR触媒設計では、この炭素担持による触媒活性効果を考慮するべきです」。

藪准教授のチームは今後、今回の研究で明らかになった電子触媒を燃料電池および金属空気電池に導入するとともに、この触媒設計アプローチを酸素発生反応、水素発生反応、およびCO2排出削減の研究に適用していく予定である。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Yabu, H., Nakamura, K., Matsuo, Y., Umejima, Y., Matsuyama, H., Nakamura, J. & Ito, K. Pyrolysis-free oxygen reduction reaction (ORR) electrocatalysts composed of unimolecular layer metal azaphthalocyanines adsorbed onto carbon materials. ACS Applied Energy Materials 4, 14380-14389 (2021). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。