固体触媒: 表面原子を再配列してナノ触媒を短時間で再生

2021年12月27日

新しい溶解―再析出技術で、ナノ触媒のリサイクルが可能に

結晶面制御によるナノ触媒再生技術。立方体のナノ粒子モデル触媒が劣化し(灰色の矢印)、形状が変化するとともに活性が失われる。超臨界水熱下における、結晶面に選択的な有機修飾との部分的な溶解–再析出を利用することにより、劣化した球形の粒子からの再生(青色の矢印)が可能になる。

© 2021 Tadafumi Adschiri

東北大学の材料科学高等研究所(AIMR)が率いる研究チームは、有機修飾と超臨界水熱処理を使ってナノ触媒の結晶面を短時間で再生する技術を開発した1。この技術により、劣化したCeO2(酸化セリウム)のナノ粒子を元の立方体に再生することに成功した。

固体触媒は、化学物質による被毒、カーボン堆積、熱や圧力による焼結、摩耗などにより、時間とともに劣化する。このため、新しい固体触媒プロセスを設計する場合には、クリーンで容易、かつ廉価な再生方法を併せて準備しておく必要がある。

しかし、上で挙げたようなメカニズムで生じる劣化に対応する従来の再生技術では、露出結晶面自体の変化をともなうナノ触媒に特有の劣化メカニズムには対応できなかった。そこでAIMRの研究チームは、超臨界水中では有機酸が特定の結晶面の露出および溶解度を向上させることに注目し、ナノ触媒の一部を部分的に溶解―再析出(再配列)させることにより、結晶面を再生するという手法を開発した。

本研究論文の筆頭筆者である笘居高明准教授は、「CeO2ナノ粒子は触媒活性が形状や露出結晶面に大きく依存し、デカン酸などのカルボン酸によって粒子径分布や結晶面を制御した合成が可能であることが我々のチームの過去の研究で分かっていました。今回我々は、有機酸であるデカン酸の結晶面修飾を使った露出結晶面の制御効果と、またセリウム有機金属錯体を形成することによる超臨界水中CeO2溶解度向上効果を掛け合わせることで、CeO2の(100)結晶面を再生するという方法を考案しました」と説明する。

研究チームはまず、透過型電子顕微鏡(TEM)および酸素吸蔵能測定によって非立方体の酸化セリウムナノ粒子の粒子径、形状、触媒活性をモニタリングしながら、立方体ナノ粒子の再生に最適な条件を決定した。次に、立方体CeO2ナノ粒子を意図的に劣化させた後、同じ粒子が立方体に変化し、触媒活性も回復することを確認した。

「この手法は、粒子の部分溶解―再析出の過程で粒子と修飾基間の複雑な相互作用が関わるため、当初成功するかどうか確信は持てませんでした」と笘居准教授は明かす。「最初のTEM画像に再生された立方体のナノ粒子が表示された時には、とても興奮しました」。

ナノ触媒は、国連の「17の持続可能な開発目標(SDGs)」2が掲げる目標6「安全な水とトイレを世界中に」、目標7「エネルギーみんなに そしてクリーンに」、目標12「つくる責任 つかう責任」、目標14「海の豊かさを守ろう」など、多岐にわたる分野で期待される新材料であり、今回開発したナノ触媒リサイクル手法を実用化し、持続可能社会の構築に大きく貢献すべく今後も研究を進めていく予定である。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Tomai, T., Tang, L., Yoko, A., Omura, Y., Seong, G. & Adschiri, T. Facile regeneration strategy for facet-controlled nanocatalysts via the dissolution−reprecipitation process promoted by an organic modifier. Chemistry of Materials 33, 7780-7784 (2021). | article
  2. https://sdgs.un.org/goals

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。