カルシウムイオン電池:資源の制約がない高エネルギー密度型次世代電池

2021年08月30日

新規電解質の開発により高性能な蓄電デバイス実現への道が開かれた

カルシウムモノカルボラン電解質のイラスト。黄色、緑色、茶色、青色の球体はそれぞれ、カルシウム、炭素、ホウ素、水素原子を表す。正二十面体は、個々のモノカルボランユニットを表している。

© 2021 Kazuaki Kisu and Shin-ichi Orimo

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)、東北大学金属材料研究所、スイス連邦工科大学ローザンヌ校再生可能エネルギー材料研究所の研究者らが共同で、フッ素を含まないモノカルボランを用いたカルシウム電解質 (Ca[CB11H12]2)を新たに設計、合成し、その特性を明らかにした1。本研究で開発された電解質は、高い伝導率と電気化学的安定性を示し、カルシウムイオン電池の開発における大きな一歩となる。

カルシウムは、資源性に富み、毒性もなく、その金属電極は、マグネシウムやアルミニウムに比べて酸化還元電位が低く、リチウム金属負極と同等の高い体積容量を持つ。そのため、カルシウム電池は、リチウムイオン電池に代わる有力な候補となっている。

だが、このような利点を持つカルシウム電池の実現には、それに適した電解質の開発が課題となっていた。

現在、最先端のカルシウム電池には、フッ素を含む弱配位性電解質(例えば、有機溶媒中のCa(BF4)2またはCa(B[hfip]4)2 (hfip = hexafluoroisopropyloxy) )が使用され、Ca2+伝導率を最大化しているが、クーロン効率や長期の電気化学的安定性に欠けている。さらに、フッ素の存在はCaF2皮膜形成を促進させ、アノード表面での可逆的なカルシウムの溶解析出を妨げてしまう。

これらの課題を解決するために、AIMRの木須一彰助教(現 金属材料研究所)と折茂慎一所長が率いるチームは、錯イオンとしてのモノカルボラン(図中の正二十面体)を用いた新しい電解質を設計した。この新しい対イオンは、Ca(BF4)2と同様、Ca2+の伝導性を最大化する弱配位性アニオンであるが、Ca(BF4)2とは異なり、CaF2皮膜を生成しない。

「モノカルボランクラスターは、安定した弱配位性の錯イオンです。しかし、多くの溶媒に溶解するわけではありません。私たちは、特定の比率の混合溶媒を使用することで、この問題を克服しました」と、木須助教は説明する。

このようにして、研究チームは、従来の大量合成可能な方法を用いて新しい電解質を合成した。電解質の性能に関する先行実験では、高い伝導性、広い電位窓、CaF2皮膜形成のない可逆的なカルシウムの溶解析出を実現するなど、有望な結果を示した。

「この新しいモノカルボラン電解質の試験結果は、他の多価イオンを用いた二次電池システムへの新しい道を切り開くものです。現在、マグネシウムやアルミニウムといった他の金属を含有させることを検討しています」と、折茂所長は言う。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Kisu, K., Kim, S., Shinohara, T., Zhao, K., Züttel, A. & Orimo, S. Monocarborane cluster as a stable fluorine-free calcium battery electrolyte. Scientific Reports 11, 7563 (2021). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。