磁性材料: 流体力学的アプローチでソフトマテリアルの磁気制御の仕組みを探る

2021年06月28日

磁性液体をメソスケールで観察することでナノスケール物性が明らかになった

酸化鉄磁性ナノ粒子の集積を示す球状の強磁性液滴(左半球にある青い円)。矢印はシミュレートされたマクロスピンで、右半球の液滴と背景の二次元投影の両方で短距離磁気秩序を表している。

© 2021 Thomas Russell

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)のThomas Russell教授が率いる国際研究チームは、流体力学実験を用いて、強磁性液滴の磁化について調べた1。その結果、液滴の残留磁化は、集積した磁性ナノ粒子間の静磁気的短距離秩序に起因することが示された。これは、今後の画期的な材料開発につながる新たな道を開くものである。

強磁性液滴は、常磁性ナノ粒子の界面活性剤が液-液界面で集積するジャミングというユニークなメカニズムにより、固体磁気特性と流体のような形状変化能力の両方を備える。

このメカニズムは、ナノ粒子間の磁気短距離秩序を固定すると考えられ、液滴の変形でも影響を受けない残留磁化を生成する。そのため、磁性液滴は生体適合性を備えた液体ロボットを実現する理想的な候補材料となり得る2

標的化ドラッグデリバリーや機能的なマイクロ流体チャネルなどの高度な生体適合性機能を提供するには、必然的に精巧なスケールで制御された形状変化を伴う。その特性に必要なのは、磁気制御がどのような仕組みか、それが液滴構造や環境とともにどのように変化するか、その変化に適応するためにそれらをどのように調整することが可能か、といった問いに対する深い知見である。今日まで、液滴磁化の短距離秩序の起源も、理論的に未解明なままであった。

「短距離の磁気秩序を直接測定することは困難です」と、論文の第一著者である北京化工大学の大学院生Xuefei Wu氏は言う。「それには、局所的な情報のみが得られる磁気イメージングまたは磁気散乱の実験が必要です」。

その代わりとして、研究チームは総合的アプローチを選択し、流体力学の実験を用いて磁気短距離秩序を調べることにした。外部磁場によって球形の液滴に誘導される回転運動と並進運動を観測し、測定可能な変数として液滴の力学的応答を得た。つまり、液滴の角加速度と速度から、それらが受ける磁気トルクを求めた。

「外部磁場は、構造的な短距離秩序により固定された液滴の残留磁化に磁気トルクを与えて、液滴の動く方向を決めます」と、共著者であるネブラスカ大学リンカーン校のRobert Streubel助教は説明する。「球状の常磁性ナノ粒子であれば、常磁性液体と強磁性液体の間の可逆変換を望み通りに行えます」。

今回のアプローチから、研究チームはこの磁気短距離秩序に関するいくつかの興味深い証拠を得ている。1つめは、液滴の水相のpHはナノ粒子をジャミング(凝集)させる界面活性剤の能力を決定し、それにより液滴に作用する総トルク量が制御されるということ。2つめは、ジャミングしたナノ粒子は静磁相互作用を介して分散したナノ粒子と結合し、さらに磁化を強化するということ。3つめは、この結合により、かなり大きな磁化を保持しながらも界面の集合体はさらに多くの非磁性ナノ粒子を収容するということである。

「残留磁化が、強磁性液滴の形成で現れたことは驚きです」とRussell教授は言う。「そのため、液滴の磁化が低濃度の磁性ナノ粒子のみでも現れて、液滴の変形によっても保持されるのです」。

今後は、数値モデリングと流体力学実験を組み合わせて、界面層のナノパターニングにより液滴の磁化と機能化をより精緻に制御できる方法について研究を進める予定である。

(原著者:Patrick Han)

References

  1. Wu, X., Streubel, R., Liu, X., Kim, P. Y., Chai, Y., Hu, Q., Wang, D., Fischer, P. & Russell, T. Ferromagnetic liquid droplets with adjustable magnetic properties. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 118, e2017355118 (2021). | article
  2. Fan, X., Dong, X., Lu, Z., Karacakol, A. C., Xie, H. & Sitti, M. Reconfigurable multifunctional ferrofluid droplet robots. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 117, 27916–27926 (2020). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。