材料化学: 化学的脱合金化法を用いて新しい多孔質カーボン電極を合成

2021年05月31日

複孔径多孔質カーボンを創製し、それぞれの細孔径を独立に制御できるプロセスが開発された

複孔径多孔質カーボンの透過型電子顕微鏡写真。メソ孔のリガメント(メインフレーム)中の共連続ミクロ孔(挿入写真)。

参考文献1より許可を得て改変。Copyright (2021) American Chemical Society.

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者は、メソ孔およびミクロ孔を有し、かつその孔径を独立制御可能な三次元多孔質アモルファスカーボンを合成するための一連の化学的脱合金化技術を開発した1。この新しい多孔質カーボンの合成技術は、0.1nmレベルの精度でミクロ孔径を制御し、数nm~数百nmの範囲でメソ孔径を調整できる拡張性の高いプロセスであり、得られた三次元多孔質アモルファスカーボンは、ナトリウムイオン電池の電極として優れた性能を発揮することが期待される。

多孔質材料の研究分野は物理的な物質輸送現象とのつながりが深く、物質の輸送特性を最適化するためには、孔径・孔形状・分布などの構造の制御が必要である。こういった課題の代表例として、次世代電池候補であるナトリウムイオン電池の電極である硬質カーボンのイオン輸送特性の最適化が挙げられる。表面、中間層、ミクロ孔といったグラファイトの特徴的な構造には、ナトリウムの拡散・貯蔵特性の改善の余地があることが数々の研究により明らかになった。しかし、硬質カーボンに含まれる構造欠陥の種類が多いため、メカニズムの解明や有用な改善指針の提案が困難である。

しかし、三次元多孔性を有し、初めから新しい創製法を使い、直接、孔構造を調整できる高性能な硬質カーボンに的を絞った改良戦略であれば話は違ってくる。AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授が率いる研究チームは、このような考え方で最先端の材料創製法として脱合金化を使用し、新しい多孔質カーボン構造を0.1nmレベルの精度で作製する技術を他に先駆けて開発した。

論文の第一著者である韓久慧(Jiuhui Han)助教は次のように話す。「ほとんどのカーバイド(炭化物)前駆体は化学結合が強く、高い化学的安定性を有しています。多孔質カーボン合成に脱合金化を使用するにあたっては、それが大きなネックになります。我々は、室温で準安定相となる特殊なNi3C前駆体を使用することでこれらの障害を克服しました」。

研究チームは二段階の脱合金化プロセスを使用し、複孔径多孔質アモルファスカーボンを生成した。第一段階では、Ni30Mn70 合金からMnを脱合金により除去し、更に浸炭により準安定状態の多孔質Ni3C合金にする。第二段階では、こうしてできた準安定状態のNi3C合金からNiを脱合金により除去し、メソ孔とミクロ孔が共存する複孔径多孔質アモルファスカーボンを形成する。この方法の重要な利点は、プロセスの各段階で特定の細孔径を制御できることである。あらかじめ浸炭したNiの熱粗大化はメソ孔を粗大化させるが、浸炭温度を下げるとミクロ孔が粗大化するため、浸炭温度の調整が鍵となる。

研究チームは更に、この新しい複孔径多孔質カーボンをナトリウムイオン電池の電極に用いて性能試験をした。その結果、既知の硬質カーボンと比べて高いイオン拡散定数、優れた定格容量、長いサイクル安定性を持つだけでなく、このプロセスで制御導入可能なカーボン構造はイオン輸送特性に関わっていることも判明した。

研究チームは今後、さまざまな金属カーバイド前駆体を使用して、このプロセスの制御能力を高めていきたいと考えている。「我々が用いる結合強度のDFT(Density Functional Theory)計算法は、脱合金化により多孔質カーボンを作製するための前駆体候補としてさまざまな金属カーバイドの性能を予測することができます。今後は、これらの金属カーバイドの研究を進めていく予定です」と韓助教は言う。

(原著者: Patrick Han)

References

  1. Han, J., Li, H., Lu, Z., Huang, G., Johnson, I., Watanabe, K. & Chen, M. 3D bimodal porous amorphous carbon with self-similar porosity by low-temperature sequential chemical dealloying. Chemistry of Materials 33, 1013–1021 (2021). | article

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