磁気光学: 円偏光で界面にスピンを発生させる

2021年04月26日

光を用いて電子スピンを発生させる新しい方法は、超高速・低消費電力メモリーデバイスの実現につながる可能性がある

円偏光レーザービーム(赤色のらせん構造)は、磁性材料(灰色の層)と非磁性材料(緑色の層)の界面に、スピン(緑色の矢印)を誘起することができる。

© 2021 Satoshi Iihama

円偏光ビームの照射によって、磁性材料と非磁性材料の界面に電子スピンを誘起できることが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)と東北大学学際科学フロンティア研究所(FRIS)の研究者らによって発見された1。この効果は、非常に高速な光磁気メモリーデバイスの基礎となる可能性がある。

近年、光と電気の利点を併せ持つ新しいハイブリッドデバイスの開発が、盛んに取り組まれている。そうしたデバイスは、現在は電子的に実現されているさまざまな機能に加えて光の高速性を組み合わせることで、超高速かつ低エネルギー消費な情報処理を可能にすると予想される。

「光が低損失で極めて高速なため、光を用いて高速かつ高エネルギー効率の情報処理を行う研究が進められています」とFRISおよびAIMRの飯浜賢志助教は説明する。「そのため、多くの研究者が電子デバイスへの光学的デバイスの実装を試みています」。

目標は、光を用いてナノスケール磁石の磁化方向を切り替え、それによってデバイスにデータを記憶することだが、光と磁化との相互作用は弱いため、こうしたデバイスはまだ実現されていない。

この問題を克服するための有望な方法の一つに、円偏光レーザービームを用いた金属強磁性体の磁化操作がある。しかし、電気的な磁化制御の有効な方法として知られる、強磁性体薄膜と非磁性重金属薄膜の界面を用いる方法の光学的応用については、これまで調べられていなかった。

今回、飯浜助教と2人のAIMR研究者は、こうした系(図参照)を調べることによって、光学的にスピンを発生させる新しい方法を見いだした。「ラシュバ・エデルシュタイン効果」の光学版によって、二つの材料の界面でスピンが誘起されることを発見したのである。ラシュバ・エデルシュタイン効果は、電流がスピンの蓄積に変換される効果であり、1990年に提唱された。光学的なラシュバ・エデルシュタイン効果については、理論的には提案されていたものの、これまで実験的に実証されたことはなかった。

飯浜助教は、「強磁性体と重金属の界面を用いて光学的ラシュバ・エデルシュタイン効果の実験的観測を試みたところ、光のヘリシティーと電子スピンの結合が、ナノスケールの界面でも存在することがわかりました」と説明する。「界面での光のヘリシティーによる効果が実証されたのは今回が初めてで、驚きました」。

「今回の研究結果は、エネルギー効率の高い光磁気メモリーデバイスの開発につながる可能性があります。また、ナノフォトニクスとスピントロニクスを組み合わせた新しい研究分野を開く可能性もあります」と飯浜助教は語る。「光磁気メモリーデバイスの実現に向けた次のステップとして、ナノスケールの光とスピンの結合をさらに強めていきたいと考えています」。

References

  1. Iihama, S., Ishibashi, K. & Mizukami, S. Interface-induced field-like optical spin torque in a ferromagnet/heavy metal heterostructure. Nanophotonics 10, 1169–1176 (2021). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。