粒界構造: 3次元原子構造を記述する規則性
2021年03月29日
二つの結晶の粒界付近の原子配列は、原子の多面体で表すことができる
多結晶材料中の隣接する結晶同士が形成する粒界近傍の原子構造は、特定の種類の多面体によって特徴付けられることが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって示された1。この知見により、効率的な多結晶材料のモデル化と特性予測が可能になると期待される。
多くの金属やセラミックス材料は、サイズや方位がさまざまな無数の微結晶で構成されている。このような多結晶材料の特性は、二つの結晶の界面である「粒界」近傍の原子配列に強く影響される。しかし、粒界近傍では結晶の周期構造が乱れるため、粒界構造の定量的評価と機能特性との相関を明らかにすることはこれまで困難だった。
面心立方構造は、アルミニウムや銅、金などの金属がとる結晶構造で、隣接する原子同士が四面体や八面体を形成し周期的に配列している。
今回AIMRの井上和俊講師らは、粒界近傍領域も結晶と同様に、特定の原子多面体から構成されることを示した(図参照)。これは、面心立方結晶中の特定の粒界について、3次元原子構造を系統的に調べることで成し遂げられた。
「粒界近傍の領域が、結晶を構成する多面体ユニット(すなわち四面体や八面体)、およびそれとは異なる粒界特有の多面体ユニットのみで充填され得ることが分かりました」と井上講師は言う。「この発見は、2次元モデルに重点を置く現行の枠組みを拡張するものです。これによって、あらゆる粒界構造を多面体ユニットによって記述することが可能であると考えられます」。
研究チームはまた、粒界の原子構造と分数の間の意外な関係性も明らかにした。こうした分数の特性は、ファレイ図として知られる数学的な図で視覚的に表すことができる。
「粒界の3次元原子構造と有理数の分布が、1対1で対応することが見いだされました」と井上講師は説明する。「ファレイ図は、振動現象や植物の葉のつき方など、さまざまな物理現象や生物現象を特徴付けることで知られています。このような種々の現象に共通する規則性が、粒界原子構造の定量的な記述に役立つことは驚きでした」。この関係性を用いることで、粒界の3次元原子配列の推定が容易になると期待される。
研究チームは、今回の解析方法を電子顕微鏡観察と組み合わせて用い、安定な粒界原子構造を実現する条件を決定したいと考えている。「こうした研究は、基礎研究として興味深いだけでなく、高性能材料の設計においても重要です」と井上講師は言う。
References
- Inoue, K., Kawahara, K., Saito, M., Kotani, M. & Ikuhara, Y. 3D arrangement of atomic polyhedra in tilt grain boundaries. Acta Materialia 202, 266–276 (2021). | article
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