超伝導: 結晶の正方晶性が転移温度に影響を及ぼす

2020年05月25日

ビスマス層状化合物の結晶構造を変化させると超伝導を誘起できることが明らかになった

ビスマス層状化合物において、ビスマス層(紫色の球の並び)内の原子間距離に対するビスマス層間の距離の比を増大させることによって超伝導転移温度が高くなることが、AIMRが率いる研究チームによって見いだされた。チームは、酸素原子(赤色の球、右図参照)を過剰に導入したり、異なる希土類原子(濃い灰色の球)を用いたりすることで、この比を変化させた。

© 2020 Hideyuki Kawasoko

ビスマス層状化合物の結晶構造を変化させて正方晶性を大きくすると、その超伝導転移温度が上昇することが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)が率いる研究チームによって発見された1。この発見は、層状材料における超伝導の操作に向けて新たな道を開くとともに、超伝導の発現機構に関して重要な手掛かりをもたらす可能性がある。

2種類の層が交互に積み重なった材料の中には超伝導を示すものがあり、よく知られた例に銅酸化物や鉄系化合物がある。こうした層状化合物は盛んに研究されてきたものの、超伝導の発現機構はまだ正確にはわかっていない。

通常、こうした材料で超伝導を発現させるには、別の元素を「ドープ」して伝導電子を増やす方法を用いる。けれども最近の研究で、結晶格子の方向をずらして重ねた2層グラフェンで超伝導を誘起できることが明らかになり、結晶構造の幾何学的操作が重要である可能性が出てきた。

今回、AIMRの福村知昭教授らは、ビスマス正方格子層と希土類酸化物層が交互に積み重なった層状化合物が超伝導を示すことを発見した。さらに、この材料では、ビスマス層内の原子間距離に対するビスマス層間の距離の比、すなわち、単位格子の底辺の長さ(a軸長)に対する高さ(c軸長)の比(c/a比;正方晶性)が大きくなるにつれて超伝導転移温度が高くなることが明らかになった。

研究チームは、二つの方法でこの正方晶性をさまざまに変化させた。まず、イオンサイズが異なる5種類の希土類元素を用いて5種類のビスマス層状化合物を作製し、次にこれらの化合物に酸素を過剰に導入して、効果的に層間距離を大きくした(図参照)。興味深いことに、これら一連のビスマス層状化合物の超伝導転移温度は、希土類元素の種類や希土類酸化物層の磁気秩序ではなく、結晶の正方晶性という構造的な要因のみに依存していた。

「例えば、ジスプロシウムという希土類元素を含む層状化合物は、磁気秩序を持つので、超伝導を示さないのではないかと考えていました。磁気秩序は通常、超伝導を壊すからです」と福村教授は説明する。「ところがこの化合物でさえ、酸素を過剰に導入すると、非磁性体であるイットリウムの層状化合物と同様に約2ケルビンで超伝導を示したのです」。

「銅酸化物や鉄系化合物などの層状化合物では、一般にキャリアをドープすることによって超伝導を発現させてきました。けれども今回のビスマス層状化合物は、単位格子の正方晶性という純粋に結晶学的なパラメーターを変えることで超伝導を示すのです」と福村教授は言う。「このパラメーターが他の層状化合物でも超伝導を誘起するか、ぜひ調べてみたいです」。

正方晶性が超伝導転移温度に影響を及ぼす理由は、現時点ではまだ明らかになっていない。その手掛かりを得るため、研究チームは現在、導入した酸素原子が結晶構造のどこに行き着くのか調べているところだ。彼らはまた、酸素の導入以外の方法でビスマス層状化合物の正方晶性を変化させられないか、研究を進めている。

References

  1. Sei, R., Kawasoko, H., Matsumoto, K., Arimitsu, M., Terakado, K., Oka, D., Fukuda, S., Kimura, N., Kasai, H., Nishibori, E. et al. Tetragonality induced superconductivity in anti-ThCr2Si2-type RE2O2Bi (RE = rare earth) with Bi square nets. Dalton Transactions 49, 3321–3325 (2020). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。